青ヶ島の攻防

〈各MOFU KUMA出撃してください〉


「は~い!」

「了解デス!」

「はいっ!」


 オペレーターの出撃指示で寧音達が搭乗するMOFU KUMAは地下にあるドックから地上に向けて出撃を開始する。


「私さ~出撃ってこう『ファイターグマ 寧音出ます!』とか言って地上までカタパルトで射出されるとかだと思ってたんだよね」


「ああ言いたいことは分かる。俺もそう思ってたもん。戦艦から射出されて宇宙を飛び回るみたいなの想像してたもんな」


 寧音の通信に瑠璃が反応する。


「アニメの話しデスカ? あれは急な戦闘に備える為でショ。モドラーは青ヶ島からこの下田に来るルートしか通りませんカラネ」

「アネットの言うことも分かるが男としてはロボットの発進には拘りたいものだ」


 いつになく饒舌じょうぜつな瑠璃に寧音が乗っかる。


「分かる分かる、私もカッコよく出撃してビーム兵器とかをぶっぱなしたかったあ!」

「だよな!」

「むむむ、2人で盛り上がってぇジェラシー感じるデス!」


 賑やかな3人を乗せオートパイロット状態のMOFU KUMAが地上へ向かう為スロープを3体1列に並びトボトボと歩く姿はどこか哀愁を感じさせる。



 ***



〈3人とも配置に着いたな。モドラーの孵化が現時刻 0905まるきゅうまるごより1時間内に始まる予想だ。そこから総攻撃をしかけ青ヶ島内での討伐もしくはどれだけダメージを与えられるかが勝負の鍵となる〉


 諸星の通信に割り込むように通信が入ってくる。


〈モドラー孵化を確認! 各員指定の配置についてください!〉


 MOFU KUMAのモニターに現地の様子が映し出される。赤いヒビが細かく入り中から赤く光る目が見えたかと思うと卵を突き破りモドラーが姿を現し吼える。


 ぐおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ


 大地の底から響く重い唸り声は空気をも震わせその響きはモニター越しでも伝わってくる。

 赤い目が自身の周囲を飛び回る戦闘機を追いかける。モドラーはゆっくり歩みを進め火口から海に向かい始める。


〈モドラーの移動確認。観測班より40メートル級と認定。移動速度から目標到達地点予想時刻1034ひとまるさんよん


 ゆっくりと歩くモドラーが地面に大きな足跡を残しながら進んでいたが突然止まると口が赤く光始める。


〈モドラー停止。口内に高エネルギー反応あり。各員退避!! 各員退避!!!〉


 モドラーの口から赤い熱線が放たれ自衛隊の防衛システムを焼き払う。一瞬で焦土化する大地を見て瑠璃達は固唾を飲み込む。


 戦闘機が飛び交いミサイルを撃ち込む。このミサイルは対モドラー用で先端は鋭くモドラーの肉体に突き刺さってから内部で爆発するようになっている。


 モドラーから緑色の血飛沫が上がる。苦しんでいるのか短い手を振り回し戦闘機を追い払おうとしている。

 それでも容赦なくミサイルが撃ち込まれ大地を緑色に染めていく。

 地上部隊も体制を整え対モドラー用ミサイルを撃ち込む。


 画面越しに苦しむモドラーを見て少し同情しつつもこのまま終わって欲しいと瑠璃は祈る。


 2足歩行のモドラーが手を地面につけ4足歩行状態になり地面を這うように高速で移動を始める。


〈目標歩行形態を変え突進! 海に向かっています。地上部隊被害大!〉


 這って進むモドラーの背中にミサイルが撃ち込まれるが腹部より硬いらしく効果が薄いようだった。


〈目標海上に到達! 引き続き空からの攻撃は継続する〉


 瑠璃は操縦桿周りにパネルを展開させる。瑠璃の載るスナイパーグマは遠距離に特化している。周囲の状況を今の内から把握してモドラー上陸と同時に討伐する算段を計算する。


 ***


「ペンギンさんいくデスヨ」


 アネットはコントロールパネルの端に飾ってあるペンギンの便箋を突っついて微笑むと操縦桿を握りファンキーグマを立たせビルのような建物に近づき左腕にマシンガン右手にナイフを装備する。


 この建物はエリア内に多数存在していてここに武器が収納されている。

 地下から射出も出来るが効率よく武器を換装出来るシステムとしてこの建物が採用されている。

 モドラーの進路が分かっているからこそのシステムといえる。


「さてと他の装備の位置を把握終了デス。2人を上手くサポートしないといけマセンネ」



 ***


 操縦桿を握り海上を睨む寧音は考える。モドラー上陸後作戦通りだと初撃は瑠璃の攻撃だ。

 怯んだところを一気にたたくか様子を見るか。瑠璃が放つ初撃の次は自分だ。この2撃目の行動は後の作戦に大きな影響を与える。


「あぁ緊張するぅ~」


 寧音は顔をバシバシ叩いて海面を見る。

 この海が世界と繋がっているのは知識としては知っているがこうして眺めると信じられないそんな気持ちになる。


「この感覚って島国特有なのかな? 昔の私の記憶……」


 寧音がまだ実家のある長崎に住んでいた頃の記憶を思い出す。家族3人で行ったヨーロッパ旅行。


(確かオランダに行きたいってお父さんが言って……)


 断片的にしか思い出せない記憶。父親と母親の顔に時々モヤがかかった様になる。


(お父さんはお酒が好きで、お母さんはフェルトで小物をよく作ってくれて……)


 そこに有るのに手に届かない様な感覚。例えるならガラスケースに入っていて見ることは出来るけど触れて確認出来ないもどかしい感覚。


〈モドラー海中を進み下田へ接近。到達予想時刻 1240ひとによんまる


 寧音が我に返りモニターの時刻を見る。


 10:05


「げっ、3時間もないのね」


 寧音が汗ばんだ手で操縦桿を握り直すとモドラーと繋がる海を睨みつける。

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