女子校の文芸部を舞台に、(おそらく唯一の)常識人であるところの美少女「神崎ひなた」が、迫りくるストーカー女子「藤原埼玉」の魔の手をいなしたり躱したりツッコんだりする恋の物語。
百合ラブコメ、あるいはテンション高めのコメディです。まず最初に触れざるを得ない点として、この作品は実在の人物をモデルにしたキャラクターが活躍するお話であり、つまりタグの通り「内輪ネタ」が多分に含まれています。そして自分はまさにその内輪に該当しているので、それ以外の人からはどういうお話に見えるのか、その辺りは見当もつかないという前提での感想になりますっていうかえっ嘘でしょぼくが出てる……?(※自分からお願いしました、ただ本当に使われると思っていなかっただけで)
笑いました。なんですかこのやりたい放題は! いや本当内輪ネタの内輪っぷりがきっちりしているというか、現実というかモデルの実際の行動をものすごく大量に(かつ忠実に)盛り込んでいて、しかもそれがちゃんとコメディらしいのがまた余計におかしいです。例えば序盤、急に出てきたお嬢様にいきなり調教されて犬になるところなんか、普通にリアルタイムで見ていた覚えがあります。一見唐突なように見えて、いやインパクトって意味では十分唐突なんですけど、でもこれ一発でしっかり九瑛さんのキャラクターの印象が固定されてるんですよね。すごい……。
中盤の謎のパワーインフレ感が面白かったです。作者の人柄というかなんというか、出る人出る人みんな強キャラみたいになってて(とはいえその強キャラ性はそれぞれ方向性が違うのですが)、それをただのお祭り騒ぎと油断して眺めていたら、なんとみんなしっかり活躍の場があるという……。ノリと勢い優先なように見えて、実は結構しっかり仕事してるのが地味にすごいです。いや本当、怒涛のコメディ展開のおかげでついつい見落としそうになるんですけど、実はこのお話ストーリーがいいっていうか、大騒ぎの裏でしっかりタイトル通りの「藤原×神崎」を貫いているんです。
この先は直球のネタバレになってしまうんですけど、クライマックスにおける主人公の活躍、神崎さんがゴリラを打ち倒す瞬間。「目を覚ませ」という叫びが最高でした。そこまでの様子見てるともう「一生眠ってて」くらいでもおかしくないのに、いやこんなの愛じゃん……実質眠り姫の目を覚ますキスじゃん……ってなりました。藤原さんが我を失った催眠状態になったのは、もちろんゴリラのせいでもあるのですけれど、でも第2話の即落ちのシーンにもかかっているように読めて、実は神崎さんその辺から無意識下でうっすらもやもやしてたのかなー、なんて、この辺の機微がもう本当にうまい。どんどんいけちゃう。素敵。
あとどうしても欠かせないもう一点というか、九瑛さんが好きです。彼女のキャラクター性と物語上の扱いが。堂々たる悪役をこなしているのに、最後に嫌な感情が残らない。むしろ魅力的ですらあって、この後味の良さがあってこそというか、やっぱりコメディはこうでないとと膝を打ちました。
総じて明るい、どこまでもまっすぐな、心をスカッとさせてくれる気持ちの良いお話でした。実はシリーズ物の三作目(たぶん)に当たる作品みたいですけど、これ単品で独立して読めるようになっているのも好きです。