第10話 今宵、最高のステージを君主に──。


「実はですね、魔王様は人肌恋しいお年頃なのです。それゆえに寝不足に陥ってしまっております」


 こればかりは仕方がありません。

 直球勝負でかたをつけましょう。


「人肌……恋しい……?」


 言葉の意味を察したのか聞き返しながらも小難しい表情を見せる勇者に対し、魔王様はと言うと……、


「うむ……そうなの……だ……?」


 今にも泣き出しそうな疑問形のうむそうなのだを放った。


 いやはや、これは魔王様へ対する裏切り。

 しかしながら他に手段がないのです。


 お涙頂戴の小話でもして腕枕へと誘導する予定でしたが、こうなってしまった以上、御覚悟願いますよ。


 しかし勇者の奴、乗る気ではなさそうだな。

 やはり一線は超えられぬと言うのか?


 ならばその壁、壊してしまうまで!


「その恋しさをぜひとも勇者殿に埋めてもらいたく、本日はお呼びいたしました」


 私のその言葉を聞いて勇者の表情はますます曇った。いっぽうの魔王様はと言うと……。


「う、う…………む。そ、そ……う……なの……だ」


 魔王様。本当にご立派になられた。

 必死に恥ずかし涙を堪えるその様子は、恋する乙女の象徴ですぞ!


 さあ、勇者よ!

 魔王様の気持ちに応えるのだ!

 ここで逃げるような男ではあるまい! みせてみよ! 内に眠る一匹の狼たる姿の片鱗を!!



「そうか、じゃあ……そうだな。眠りにつくまで絵本でも読んでやろうか?」


 首を傾げながら優しい笑顔で提案する勇者。

 それを聞いた魔王様はポカンとした表情で私に視線を送ってきた。


 こ、これは!!

 や、や、や、や、優しいお兄ちゃん属性きたぁぁああ!!


 ……おっといけない。

 私が興奮してどうする。


 魔王様は見た目こそロリだが、精神年齢は立派に大人! ……たぶん。


 絵本はないだろう! 絵本は!


 だからこそのポカンとした表情──。


 嬉しさ半分、謎半分。

 おそらく魔王様の心境はこうだろう。


 さて、どうしたものかと次の一手を考えていると、魔王様にジャケットの裾をグイッと引っ張られた。


 さきほどまでのポカンとした表情は何処へと。

 その意味を理解し情景を想像でもしたのでしょうか。溢れんばかりの笑顔で私をみてきた。


 “これっ! これっ! これにするーっ!“


 と言うのが伝わってくるではありませんか。


 この魔王様にして勇者ありといったところでしょうか。


 これでは良くて兄妹。下手したら父と娘ですぞ……。絵本を読み聞かせ寝かしつけるなど、発想がもう…………。


 しかしながら修正の余地はもう残されていない。


 大丈夫。年頃の若い男女だ。


 なにより魔王様のインナーはヨレている。絵本を読み聞かせるうちに、その緩さに気付き……勇者は衝動を抑えられなくなる……。


 そして二人はひとつに──!!

 

 燃え盛るような夜ッ──!

 そして訪れるは魔界平和ッ──!


 見えた! 好機ッ!!

 Tシャツのヨレは魔界を救う!


 ……ゴ、ゴホン。落ち着け、私。

 私が興奮してどうする……。



 お膳立ては最高の形で整いました。

 魔王様を最高のステージへと導きましょう。



 ◇ ◇



「さすが勇者殿。その素晴らしい提案、ぜひともお願いしたく存じます。それではただいま、絵本を持ってきますゆえ、お二人はベッドでご歓談でもしてお待ちください──」



 魔王様、ファイトです!

 

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