触れられない止まらない

朝凪 凜

第1話

 今日は遊園地だ。付き合って初めてのデートというやつだ。

 誰かと付き合うことも初めてだし、遊園地に行くのも子供の時以来で、何を乗ったら良いのかとか全然分からない。

 友達に相談したけど「大丈夫大丈夫、成り行きでなんとかなるって。恭子きょうこは心配性なんだから」なんて言われてなんの助言も貰えなかった。

 そんな不安な中、待ち合わせ場所に彼が現れた。

「ゴメンゴメン。待たせちゃったみたいだね」

 そう言って彼、須崎すざきとおるがやってきた。

「全然。まだ待ち合わせの時間前だし、早く遊べるから良かった」

 30分前に着けばいいと思って出たら45分前に着いてしまったのでどうしたものかと思っていたけれど、10分も経たずに彼が来たので、本当に待たないで済んだのだ。

「それじゃあ、ちょっと早くなっちゃったけど行こ」

 なんとなく恥ずかしくなって私から先に歩き出してしまった。まだ手を繋いだこともないし、いきなり繋ぐのも気恥ずかしいのだった。


 学校が試験休みで平日だったからか遊園地の中はだいぶ人が少ない。それでも閑散としているわけではなく、アトラクションに空席は見えない。

「えーっと、どこから行く?」

 パンフレットを手にして私が問いかける。

 成り行きで私が先導することになったせいでパンフレットは私が持つことになってしまった。

「まずはゆっくりしたところから回りたいけど、どうかな?」

「うん、いいよ。じゃあ……――」


 ゆっくり進んでいく時間。

 二人用の乗り物に乗って進んでいくショーアトラクション。他にも4D映画のようなアトラクション。宇宙空間のようなところをコースターで回っていくアトラクション。

 その間もなかなか会話が弾まずギクシャクしたまま過ぎていく。

「今言うのもなんだけど、どう? 楽しんでる?」

 慣れていないのが分かったのか、それとも楽しそうに見えていなかったのか、そう訊いてくる。

「う、ううん。そんなことない。すっごく楽しいよ。楽しいんだけど、なんていうこのかな……緊張しすぎてどのくらい楽しいのかよく分からなくなっちゃった。こういう所って私あんまり来ないから、嬉しいんだけど……はしゃぎすぎないようしようとか。そんなこと考えてると楽しいんだけど、よく分からなくて」

 しどろもどろになって言い訳がましくなってしまい、俯いている私に――

「そっか。もしかして楽しくないのかなって思って、やっぱ俺なんかよりも他の人との方が楽しいのかなって思って――」

「そんなことないよ! すっごい楽しい。楽しすぎて私何も考えられないもん!」

 顔を上げて咄嗟にそんなことを口走ってしまって、すぐにまた顔を伏せてしまう。

「良かった。そう言ってくれたら俺も嬉しいな。俺もどこに行こうかとかどういう風に回ったら楽しんでくれるかとかずっと悩んでたんだからな」

 そう言ってくれて、同じ気持ちだったことに嬉しくなってしまう。

「じゃあちょっと休憩しよ。あっちのお店見に行きたい」

 指差したのはこのエリアのグッズショップだ。ここら辺で一度休憩しないと疲れてしまうのだ。精神的に。


 それからショップに入ってキャラクターのぬいぐるみや缶バッジなどを見て回っていると。

「ここ、はがきが出せるみたい」

 そう言われて彼の所に近寄ってみると

「『当園の消印で記念撮影した写真をポストカードにして好きな切手シートを組み合わせられます』だって。どうする?」

 問われるも、

「でもこれ、家に届くでしょ? 家族に見られたら恥ずかしいっていうか、なんていうか……」

「あー、それは確かに。じゃあ切手シートだけ買う?」

「うん。そうする」

 さすがに写真は家族に見られたら根掘り葉掘り聞かれそうで嫌すぎる。っていうかこういうサービスを喜んでやる人がいるのか疑問。いやー、いるんだろう。私みたいな小心者には分からない世界なんだと思う。



 ショップで買い物をして食べ物を食べながら休憩して、しばらく時間がまた過ぎていく。

「だいぶ回ったけど、この後行きたいところとかある?」

「じゃあ……最後に……」

 そう言って指を差すと

「よし、じゃあ最後に行こうか」

 そう言って歩き出した。


 列に並んでいると、前の方のキャストからアナウンスがあった。

『少々風が強くなっておりますので、お足元には十分ご注意下さい』

 そう言って、前の列がどんどん減っていき、自分たちの番になった。

「少し揺れますので、手を繋いでご乗車下さい」

 そうキャストに言われ、お互い目を合わせてしまう。これまでまだ一度も手を繋いでいないのだ。しかしそうしている間にも乗る準備が始まってしまう。

 もたもたしている私の手を取って彼が引っ張った。

 二人とも乗ったのを確認してキャストの人が扉を閉める。

「ゴメン、大丈夫だった? 無理に手を引っ張って痛くなかった?」

 無言で頷き、しかしその繋いだ手はまだ離れてはいなかった。

 一度繋いだら離したくないと思ってしまい、私の方から強く握り返してしまっていたのだった。

 その手を彼はビックリしたと思っていたようで、私は少しホッとしていた。彼のことは好きなのだけど、まだ口にするには時間が足りないのだ。

 少しずつ時間を重ねて、いつか口に出来たらと思うのだ。大好きだ、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

触れられない止まらない 朝凪 凜 @rin7n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ