或るスライムの独白 第3話
「いやぁ、今日はめでたい日だ。俺もついに家族持ちってやつか」
駄犬がまた何か言うておる。じゃが無視じゃ無視。我はひっじょーに怒っておるのじゃから。
え?我は何をしておるのかって?見ればわかるじゃろ。ヤケ食いじゃ、ヤケ食い。
この、んむっ、ぽりばけつとやらは、もぐもぐ、なかなかんまいな……ごくん。
駄犬が言うには”ぷらっちっく”とやらで出来ているらしい。ふむ、確かに昨日食べた駄犬のざ、残飯……と味が似ておるな。
筒状のような物も食べた。”あるみかん”とやららしい。これは先程の物と違って硬いの。じゃが何というかクセになるというか。ふむ、ちまちまと食べ続けたくなる触感じゃな。食間に食べたくなる、なんつってな。高貴ギャグにひれ伏せぃ!
「さて、なんだかんだやってるうちにもういい時間だな。今日は朝が早かったし腹が落ち着いたら風呂入ってさっさと寝るかね」
もぐもぐもぐ、もぐ?……あれ?我全部食べちゃった?
…え?もしかしてまた駄犬の残飯食べちゃった系?
(ノ∀`)アチャーじゃこれは。……悲しくて涙が出てきそうじゃ。
◆◇◆◇
「お前ほんとテレビ好きだねー。何がそんなに面白いんだ?」
よくわからんが色々と映るこれは“てれび”というらしい。中々に面白い。
どういう原理でこうなっているのかわからんが、どうやらこの犬小屋ではない遠方地の景色を映しているのだろう。しかも次々と変わっていくのも面白い。
駄犬が後ろでキャンキャン吠えているが、こちらを見ている方が余程ためになるな。
『探索者に超人気ブランド、エミール社から今冬新作が発売!フレイムドラゴンの背骨を丸ごと使った豪華素材でどんなモンスターも一撃!なんとお値段はお手頃価格の128万円からご用意致します!お求めはお近くのエミール公式ショップへお越しください』
「かっこいいよなぁ、この槍。128万がお手頃価格とは全く思えんけど、こんなん付けて早見 唯奈みたいに探索者して命がけで平和を守るってやっぱり男としてはちょっと憧れるんだよな」
なんじゃ?駄犬は今映ったものが欲しいのか?
じゃがフレイムドラゴン如きの背骨を使っているという事は、恐らく大した代物ではないはずだぞ?まっ、その辺まで我が言う筋合いは無いがな。
それよりも駄犬、貴様自分の面構えを見た事があるのか?どう考えても脇役顔だぞ?いや、脇役にすらならん路傍の石顔とでも言おうかの?簡潔に言えば三流顔か?
「さて、そろそろ風呂入るかな。テレビは点けたまんまにしとくからいい子にしとくんだぞー」
我を愛玩動物扱いしているのは気に食わんが、さすがに自分の立ち位置くらいは理解していたというところか。思ったよりもすっきりした表情だな。だが待てよ。ここで駄犬を多少喜ばせておくのもいいかもしれん。身の丈に合わない、糠喜びになるであろうが、これから我の世話を永続的にさせる事を考えれば、多少のアメも必要かもしれんな。
……ふむ。先程ヤケ食いしたおかげである程度”溜まった”な。これならいけるだろう。
「クロ…ど、どうした?ほんとに大丈夫か?」
……気味の悪い猫撫で声でなんだ?いま我は集中しているからやめあへえぇぇぇ♡ いきなり撫でるなとあれほどっ♡♡
そっ、そんな事したら出ちゃうううぅぅぅぅ♡♡♡
駄犬の急な愛撫で我の身体が刺激される。
大きく口が開き、すぽんっという小気味良い音と共に駄犬の頭を飛び越えて先程”てれび”で見た槍を吐き出した。
「……は?」
無理やりひねり出されるこの感覚……クセになるかもしれん♡
◆◇◆◇
「ふぅむ……」
もうかれこれ四半刻ほど駄犬が机の上の槍をまじまじと見て唸っておる。あまりの出来栄えに感動して語彙すら失ってしまったか。
ふむ、駄犬の膝の上に乗ったがまずまずの乗り心地じゃな。
フーハハハハ!!貴様は我の召使であるからな!我を乗せる役目を許してやろうぞ!
「クロ、特に辛いとか苦しいとかは無いか?」
フハハハ!フハっ?なんだ、急にこやつはどうした?ついに我を世話する自覚でも出てきたのか?少しおだて過ぎたかもしれん。
我を愚弄する時は腹立たしいが、心配されると気味が悪いな。いや、気持ち悪いな。
「あれ?」
うぬ。駄犬が槍を持ったまま固まった。眉間に皺が寄っているところを見ると何やら考えているらしい。我の生み出した物にケチでも付ける気か……?
何度か手に持って上げ下げし、その後は我を下ろして小屋内の様々な物と一緒に上げ下げし始めた。重さでも計っているのか?
一頻り色々な物と上げ下げしたら、今度は槍を小刻みに上下させ始めた。意図がよくわからんな。
それもすぐに終わると、駄犬がぽつりと呟いた。
「これ、どう考えても耐久値皆無だな…」
……ん?どういう事じゃ?そっくりそのままの見た目じゃろ?
駄犬を見ると、困ったような困惑した顔をしていた。よくわからん。
せっかく下賜してやった物にケチを付けるとか、我いまちょっと怒っとるぞ。
我がプンプンしていると、駄犬は何やら箱でぽちぽちとし始めた。すぐに何かを見つけたらしく、箱を指差しながら我に見せてくる。この箱も”てれび”みたいなものかの?
「クロ、この槍だとちょっと危なすぎるわ。こんな感じの槍とかは出せないの?」
フム?駄犬の意図がわからん。出せと言われれば出せるが、先程出したばっかりじゃから今は出せんぞ。それに我が出した物の何が気に食わん?全く持ってわからんぞ。
箱の中の槍はシンプルな槍じゃ。先程我が出したゴテゴテした物よりも装飾という意味では遥かに劣る。そもそもが、槍が危ないなどと何を言うておるのか。槍は危ない物に決まっておるじゃろ。貴様は阿呆か?……阿呆じゃったな。
「もしかして作れるほどの素材が無いって事か?」
そうじゃ。素材という意味では今は無い。我はウンウンと何度か頷く。この程度なら駄犬でも理解できるみたいじゃな。
「とはいえ、もう部屋の中には食べさせられるプラ製品は無いしなぁ…」
駄犬が小屋内をキョロキョロしながら何かを探しておる。ここには我が触手を伸ばしそうな旨そうな物は無いぞ。
「クロ…、せっかくこれだけ立派な槍を出してもらって悪いんだけど、たぶんこの槍は使えないんだ。まず新発売の槍を俺が持っていたら不審がられる事。それと…ちょっと耐久値が低すぎるかな…」
なるほど。やっと駄犬がうんうん唸っている意味がわかった。駄犬は装飾物としてではなく、実用的な槍としての機能を求めておったのじゃな。事実、我が出した槍を立派だと認めておる。その上で、実用性で言えば低いから先程我に見せたシンプルな槍を求めておるという事か。まぁ筋道は立っているな。言いたい事もわかる。貴様に使いこなせそうな気は全くせんが。
「いや、全然悪くないんだよ?見た目めっちゃカッケーし、俺は好きなんだけど、でもただのリーマンがいきなりあんな高い槍持ってたらおかしいじゃん?」
“りーまん”というのが何かはわからんが、駄犬には宝の持ち腐れであるのは否定できんな。高貴なるショゴススライムたる我が生み出した物だからな!グフフフ…。
「だ、だからちょっとこのままじゃダメかなーって、な?わかるだろ?」
うむ!貴様はダメダメじゃ!それが分かっただけでも貴様は少し賢くなったぞ!ウムウム!
「そ、そうなんだよ!だから本当に俺が使えるように、使っても不審に思われないようにまずはこのシンプルな槍が妥当だと思うだろ?」
うむ。確かに貴様程度にはまだあの槍は早い!そういう意味ではこのシンプルな槍の方がいいと思うぞ!
「なのでせっかく出してくれた槍なんだけど、これを素材にしてシンプルな槍を出してくれるかな?」
よぉーし!豪華客船に乗ったつもりで我に任せとかんかーーい!!
「よしよし、それじゃ槍を入れるから口を開けてくれ。あ、ちなみにだが可能な限り固くしてくれるか?それと穂先は出来るだけ鋭く頼む」
こやつ直前になって希望を増やしてきおって。ちょっと我苛ついたぞ。ギリギリで言うてくる奴多いからな。全くけしからん。
……あむ。もぐもぐ、やっぱり我が出した、むぐ、ものは、んむ、素晴らひい出来、じゃの……ごくん。うむ、美味!
我の体内で一度分解し、再構築を図る。箱の中の槍を見つつ、一つ一つの原子レベルで固めていく。我の今の力では十二分な固さまでは持っていけんが致し方あるまい。駄犬の希望通りに穂先を鋭くして、っと…。
「おっ、そろそろ来るか?」
再構築が完了した。箱の中の槍と寸分たがわぬ寸法になっておろう。
よーしいくぞっ!……それぃっ!!
すぽんっ、ひゅー…ぐさっ。
うひょひょ。駄犬の股の間に刺さったわい。あともう少しじゃったの!
駄犬の冷汗を流しながら固い笑顔で我に向いた。
どうじゃ、貴様の希望通りの鋭さであろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます