#34:


 緊迫の余り、呼吸がままならなくなっているのですぞ!! 大袈裟なほどに胸底まで空気を吸い込み落として、肺に溜まったその塊を少しづつ削り出すように歯の隙間かた放出して何とか落ち着こうとしている私なのですが。


「……この諸々の途中から、『人間の意識を失わせる』、何らかの方法があるってことは薄々感づいていた……」


 完全に優位マウントを取ったかに振る舞うアオナギ氏の言葉に、私の全身の不随意筋たちが一斉にすくみ上るかのような感覚を浴びせられるのですが。そのどうともならない動きをも制されるように、三度ごり、と銃口らしきものが捩じ込まれまするが。


「初っ端も初っ端、『ここ』に連れて来られる前に、俺らは多分全員が全員『気を失わされている』。他ならぬ俺も、前後不肖なわけで、まあ他の奴にも言質は取ってある。そして無意識のうちに集められたと。無作為……そう取れもするが、俺は『逆』なんじゃあねえか? そんな風に考えてみた」


 ぬおぁうッ!! こ、この男……どこまで……どこまで到達しているというのでありますかッ。まずい。非常にまずいですぞこれはぁ……


「……とある脳波を操って、あるいは外部から放射して、ヒトの意識をどうにかするみてえな、『実験』をカマそうとしていたと、お見受けするぜ、久我クガさんよぉ。意識っつぅのは、その辺……α波とか、ノンレム睡眠とか、そういったことに直結してると、そう考えてんだろ? 詳しくは分かりゃあしねえものの」


 あわわわわわ、「詳しく分からない」と言いつつ、その思考。何故。何故そこまで至ったと……いうので?


「……流石にその先の真意までは推し測れやしねえけどな。今まで言ったことは大体当たってんだろ? 『敢えて問わなくても』、そのツラ見てりゃあ分かるぜぇ」


 !! 「敢えて」? 「問わなくても」? こ、この男は知っている……辿りついている……何故? 何故そんな洞察が出来ると……?


「俺が『至れた』のの、すべては、相棒のおかげだ。そしてお前さんの失策にもある」


 長い顎を殊更に歪めながら、アオナギ氏……アオナギはそんな言葉を連ねてきますものの!! いやいや待つのですぞ。いやブラフ!! そんなのブラフ!! カマを掛けているつもりかも知れませぬが、私はおいそれとそんな見え見えのエサに引っかかりませぬぞぉぉぉッ!! そして「失策」? 顧みてそんなものは無しッ!! ゆえにこれはただの挑発ッ!! クククク、であればまだ全容までは把握していないということの、


 ……裏返しになりますよなぁ。


 急速に呼吸も鼓動も落ち着いてきましたぞ。フフフ、こんなぽっと出の怪人物に、私の崇高たる思想などが理解できるはずも無かったッ!! なるほどなるほど? これはただの脅し、脅迫に過ぎないと。まだカネが足りないのですかな? 強欲なるお人ですなあ……しかして、もう少しの端金はしたがねを掴ませて去ねさせるもまた一興ですか。


 私が外面だけの、おもねる感じの言葉を放とうとした、


 ……その刹那でございました。


「……『嘘発見機』だろ? かいつまんで言うと」


 ぽん、と殊更に軽く放り投げられたかのようなそのしゃがれた声に、


「……!!」


 私の背筋は、その内部の脊椎脊髄ごと、伸び切ってしまうかのような衝撃を受けたかのように感じるのでありますが。


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