Dice-15:賃借は/無造作に
「第一局」を驚異的とも思えるまくりで制した僕は、係の黒服から無造作に札束を手渡されたのだけれど。
ちょっとした興奮状態下にあった僕は、熱を帯びた前頭葉を冷まそうとばかりに鼻からの深呼吸をせわしなくカマしつつ、
いや何て言うか実際自分でやってみるのはやっぱり違うな……緊張感というか、途中からは負けた時の処遇みたいな負債というかが瞼の裏にチラついてくるかのようで……いやいや混乱しているな、まだ……
途中でぶっ倒れたこと。それも頭の中には疑問として残っている。何でだ? 何が? という疑問のベクトルは定まらないものの。
先ほど感じた清々しさ、全能感みたいなものは収まっている。と言うか過ぎ去ってしまった……そんな喪失感的なものを今は感じている……うぅん、いろいろ諸々の感情が寄せては返すかのようでうまくまとまらない……
「よう相棒、二人共、勝ち残れたことにまずは乾杯だ」
急に襲ってきた脱力感を何とかいなそうと、ソファに崩れ落ちるかのように寄り掛かった僕の正面から、そんな力の入っていなさそうなしゃがれ声と共に、ワイングラスが供される。
「……勝ち残れた……のはいいことなんでしょうかね?」
やや黄味を帯びた透明の液体が七割ほど満たされた細身のグラスを、申し訳程度の会釈と共に、慎重に摘み取る。アオナギは曲がった背筋のままだが、全然僕よりは余裕がありそうだ。もう片方の手に保持していたグラスと僕の手の中のそれを軽くぶつけ鳴らしてくるが。
「ものの五分でうん百万だ。割がいいにもほどがあるが、はて、いいかどうかはさっぱりわかりゃあしねえぜ。単純に『運』なのかどうか? ……そこんとこも実はよう判断できねえしな、この状況じゃあ」
言いつつ、肩に掛けていたナイロンのエコバックのような蛍光イエローの袋をどさと僕が横たわるように座っているソファの肘掛に置いてくる。これってまさか……
「マジの
大金を労せず手に入れたは入れたが、得体の知れなさはやはりこの男にも掴み切れていないようだ。大して興味も執着も無さそうに袋の持ち手を持ってぶらぶらさせている。
「対局」の勝ち方によって、勝者に渡されるカネの多寡が変わることは聞いていたが、自分の手持ちの百万の束と、アオナギの八百万の「塊」とを比較すると、そこには厳然たる「格差」があるような気がする……と、
「このカネもよう……『交換』……あるいは『供託』できるか……試してみるか?」
「供託」っていうか……つまりカネの行き来が可能かってことか……? いやそれは流石に……とか考えていたら、臍の辺りにぽんと札束が降ってきていた。
「……!!」
アオナギが蛍光袋から放った札束のひとつだとは認識できたものの、いきなりやるか? しかし、周りを何気ない顔で睥睨している黒服はまたしても見て見ぬふり。意外に何でもありだな……が、
「……この行為、カネをやり取りすることが……何かになるんですかね?」
と僕の独り言めいた呟きの問いは、さあな、とのひと言であしらわれて白ワインと共に飲み下されてしまった。まあいい。僕は一応その投げ渡された百万を丁重にお返しする。
<さあ!! さくりと参りましょうかね!! 『第二局』は『15分後』に開始ですぞ!! そして今回もまた厳正なる抽選にて、組み合わせが決定されました!! 前に注目です……そして『174』の半分が勝ち残ったんなら『87』は奇数じゃね? と感づいた貴方……そう、今回はたったひとり、ラッキーな『シード』が!! 戦わずに次戦へと進める幸運な御方がいるわけです……ふふふふ……>
進行はまたも滞りなく進むようだ。と言うか「シード」……それがどれほど優位にあるものなのかは分からないままであるが。
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