Dice-07:裏工作は/明瞭に


<先ほども申し上げた通り……『ライフ10』ずつから開始しまして、出目の多寡によりマイナスされていき……先に『ゼロ以下』になった方が負けと。そして勝った側に、勝負がついた時点での『残りライフ×100万円』の賞金の贈呈と、負けた側に、勝ち側の分の負債を進呈と。上は1000万、下は100万、簡単ですね?>


 何かご質問があれば受け付けますが、みたいなことを主催者はのたまい、それに対してぽつぽつと質問が上がってくるが。


「運……か、うん? 運なのか? やっぱ運? ううん?」


 ちょっと錯乱し始めてきたかのようなアオナギの声に意識を向けさせられる。が、僕もそれに概ね賛同志向ではある。けど……僕もとりあえず言葉を発することとする。


「……でも、まったくの運っていうと……あ、いやそこも運なのか……」


 応えようとして、結局自分の中で咀嚼しきれずにそんな曖昧な返事をしてしまう。と、アオナギは何かを両手で掴むような手の形で、二度三度と自らのテカる頭を指先で叩くと、やにわにこちらに振り返ってくる。その突き出た長い顎にぶつかりそうで思わず身を引いてしまうが、突き出された右人差し指は、的確に僕の鼻の頭あたりを捉えていた。


「……相棒、思ったことは何でも口に出してくれ。思考の共有、それだけが現段階における『組む』ことのメリットと思われるからよぅ……どんと来い、どんと。『そこも運』っつぅのはどういうことだ?」


 かまーん、みたいな声を上げて、両掌を自分に向けてぴらぴら振りながらぐいぐい来るけど、うぅん……まあ考えを整理するためにも言っておくか。


「普通の『1から6までのサイコロ同士』の対決であれば、純然たる『運』って言えるのは確かですけど……今回使うのって『174種類』のそれぞれ出目の異なる奴ですよね? つまり、その時点で平等とは言えないので『運』じゃないのかな、と。ただその各々のサイコロの割り振りは、運営側が言うのを鵜呑みにすれば『ランダム』ってことなので、そこも含めて『運』なのかなぁって」


 いったん自分の中で整理して話してみたものの、やはりその通りの運任せのような気がした。が、一方のアオナギはと言えば、静かに、と言わんばかりの、かさついた唇の前に人差し指を立ててあらぬところを凝視している。何か、思いついたのだろうか。と、


「……相棒、あるサイコロに対して、勝率が高くなるサイコロっていうのは、この場合、存在したりするのか?」


 どういうことだ? 出目に有利不利があると……そういうことを聞いているのか? と言われてもすぐには答えは分からない……とか固まっていたら。


「……いや、それより前にやるべきことがある。相棒……」


 アオナギが、何をするかと思いきや、自分のよれよれの長袖Tシャツの胸元から金属質感の「名札」を外すと、おもむろに僕に向かってオラ、と差し出してくるのだが。


「出目の『交換』っていうのが……成り立つのかどうか試してみようぜ?」


 その、もともとひん曲がっているような長い顔を、さらに歪めるようにして不気味な微笑を浮かべるアオナギ。何かいい案でも? 僕はその勢いに押されるようにして、自分の「名札」を差し出してしまうものの。これ自体がアオナギの騙しとか、そういうことはないよな?


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