Dice-04:勧誘は/的確に
ともかく。のっぴきならない場にいるということだけは把握しなければならない。「負債を抱えさせられる」「意識を奪われる」……さらりと言われたが、割と尋常では無い言葉だ。それも有無を言わさず的な感じで。床にみっしりと敷かれた毛足が短いが高級そうな深紅のカーペットの幾何学模様に目を落としたまま、僕は考え込むというよりは、考えても無駄なのかも知れないという諦観の方に思考が傾いてしまっていることを自覚する。
逆らわない方が得策……そんな空気が、この場に蔓延しているかのようで。先ほど怒声を上げていた輩たちも今は委縮気味……意識云々とかの言葉も、この喉に貼り付けられたモノも、こちらを掌握するためのハッタリなのだとしても、それでも人はそれに抗う行動というものをすることは容易じゃあない。ここに連れてこられる時に一度なりとも「意識を奪われた」という経験があればなおさら……
<……ご理解いただけたのならば、早速『第一局』のご説明を。なぁに簡単なルールですから。すなわち『一対一』であなたがた『174名』それぞれに配られまする唯一無二の『ダイス』……こちらを振っていただき、出た『目』の大きい方が、小さい方の目を引いた数だけ、相手の『ライフ』を減らすことが出来ると。そして『10』あるライフを『0以下』にすれば勝ち、されれば負け、という
シンプルはシンプルだが……それだけに「運」以外介在しないように思える。これを血の通った人間にわざわざやらせる理由……先ほども「人間の運・思考が絡み合ったら」とか言っていたが、思考の入る余地は無いかと……
<うふふふぅ……『運』だけじゃないかとか思った御方、御明察……でもですね、そういった『理』とはまったく別のところにある『超常的なるもの』……うふふ、例えば陳腐な言い方をしてしまえば『超能力』だとか、そういったものを完全に排除して考えることが出来ますか? 全く無いと、言い切れるのでしょうか果たして? そういったところも組み込んで私は見たいのです……『事象』を>
主催者の言葉は、だいぶ意味不明な方向へと流れそして揺蕩ってはいたものの、どうあれもう自分の身さえ(無論負債を抱えることなく)無事ならば、いいんじゃあないか的な考えに埋め尽くされていくようで。
間違いなくイカれている。自分が巻き込まれる謂われの心当たりは無いものの、そんなことを考えている場合でも無くなってきた。
と、ままならない思考を持て余して結局何ひとつまとまらないままの僕。その時だった。
「……少年」
おっとぉぉ、いきなり真横、かなりの至近距離からそのような声がかかったことに驚き、思わず身を縮こめてしまうが。何だ?
「……お前さんがいちばん冷静そうだ。ひとつ、ここは組んで『必勝』を狙わねえかい?」
僕の座したソファの左横から、しゃがんだ姿勢でこちらを見上げて来る男……汚らしい脂ぎった長髪、その下から覗く、濁っているが鋭いといった何とも表現しづらい目。ひん曲げられた口元から下は、それよりも反り返った顎がこちらに向けて突きささんばかりに湾曲している。
誰だこの男……外見からして不審感を否応上げて来る御仁ではあったものの、不思議とその言葉には惹かれる何かがあったわけで。
それにしても「必勝」? それはいくら何でも「ありえない」ものなのでは?
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