無人島に持っていくもの
巴菜子
第1話 無人島に持っていくもの
「ナイフとー、食料とー、んー。あ、懐中電灯かなー」
「それ持ってっても電池切れちゃったら終わりじゃん。それより寝袋とかのが良くない?
「えぇー?3つでしょ?そーだなー。まずはナイフでしょ?で、果物とか種のある食料かな。持ってったの無くなってもそれ植えて育てたりできるし」
「確かに!もう1つは?」
「植物図鑑、とか?どれが食べれるものか分かったら良くない?」
「あーね。やっぱ食料が一番大切だよねー」
『あなたなら無人島に何を持っていきますか?何を持っていくのも自由ですが、数は3つまでです。』
この話題になったとき、私は必ず嘘をつく。ナイフ、食料、あとひとつは定番の中から適当に選べばいい。
この話題が嫌いな訳では無い。むしろ面白いと思う。ただ、この話題が出た日の夜は決まって不安になるのだ。
「もし、どうしても無人島に行かなければならなくなったらどうしよう。3つだけの何かを持って、たった一人で行かなければならなくなったら」
と。独りは嫌だ。独りは寂しい。独りは怖い。独りは心細い。急にそんなことがあるはずもないのに、不安になるのだ。
だから考えた。もし無人島にたった一人、何かを3つだけ持って行くことになったら、何を持っていくか。どんな気持ちだろうか。何をしようとするだろうか。考えて、考えて、考えて、出た答えは、友達とのお喋りで言うには少し重いうえに、数も足りなかった。
それを考えた日の夜、私は、家族と友達の写真を見ながらこめかみに銃口をあて、虚ろな表情で引き金を引く夢を見た。私は、独りでは生きられない。知識も、度胸もなく、独りでは弱すぎる私は、自分を支えてくれる誰かがいなければ、生きることへの執着すらも失くしてしまうだろう。私は弱い。補助輪がないと転んでしまう。誰かが助け起こしてくれないと起き上がれない。そんな私が、私は嫌いで、嫌いな人と2人きりの空間が、私は嫌い。だから私は、私なら、無人島には銃と写真を持っていく。嫌いな空間から逃れるためなら、命だって惜しくない。私は、私のそんなところが嫌いだ。
無人島に持っていくもの 巴菜子 @vento-fiore
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