貧乏高校生の俺は美少女と運命の恋なんて訪れるだろうか?

久世原丸井

第1話 出会いは突然に…… 前編



 季節は寒い冬を通り越し、新学期を迎え、太陽が降り注ぎ日差しを浴びながら、いつもの道を彼は無表情で歩いていく。


 駅に着くと、電車が到着するにはまだ10分もある。そして、電車の到着を待ちながら本を片手にしてじっと視線を落とし、立ち尽くす。




 しばらくして、学校の最寄り駅に着くとそのまま徒歩で学校まで目指す。



「新学期が始まるのもあっという間だよな…」


 

 ため息まじりでぼそりと呟く。


 新学期とは、期待と希望に胸を膨らまして、新しい教室で一年を過ごすのだが、俺からすると大変で忙しい一年を過ごさなければならない。


 家柄は、両親が離婚して母親が借りた一軒家で一緒に住むことになったが、早々に体調を崩してまともに仕事ができない状態になり、生活状況はかなりきつきつである。


 今では、休みの日を使ってほとんどアルバイトでスケジュールが埋まっている。いっそうここから抜け出したい気持ちだが生活していく上で仕方のないことである。とそう心に留めておく。


 そして、校内に入ると早速学校の掲示板にクラス名簿が貼られている。



「よう!元気か!」



 威勢よく、一人の男の子が目の前に現れた。



「俺は見ての通り休みの日に仕事で散々振り回されて疲れ果てたよ」


「それは大変なこったな、もう少し休みの日くらい気を抜いたらどうだ?」


「そうしたいのは山々だけどな」



 俺の隣にいるのは、高校一年生の時に同じクラスになった 杉本 圭すぎもとけいだ。見た目はイケメンで、周りからも注目度は高く、運動神経は抜群。そのせいか、周りの女子の視線が無駄に熱いのが気になるところだが。



「で、今年は一緒のクラスじゃないのか」


「そうだな」


 

 彼とは、学校の休み時間や休日に一緒によく過ごした友人である。



「となると瀧がいない俺たちは寂しくなるというわけか」


「別に彼女だけで充分だろ」


「おおー、わりぃわりぃそういえばそうだったな」


「このリア充め!」



 俺はスギをしっかり睨みつけてから、新しい教室に向かった。




 教室に入って最初に黒板の貼り出されている座席表を見るとやはり決まって窓側の後ろの席だ。その場所まで行き、机の上にバックを置くと春休み前に渡されたプリントや冊子、提出するのに必要な書類をまとめて机の中にしまう。



「ねぇ、そういえば今日からこの教室に転校生が来るんだって!」


「えっ、そうなの!?」


 

 ふと俺の耳に転校生の話が伝わった。そういえば、俺の隣の席だけ荷物が置かれている様子がない。


 そう思ったとき、先生が教室に姿を現し、既にクラス全員が着席しているようだ。



「今日から転校生がこの教室にくるからよろしく頼む」


 

 先生が廊下にいる転校生に合図を送るとともに教室の中に入ってきた。



「なんだよ、すげー可愛いじゃねえか!あとで俺の彼女になってもらお」


「やめとけって、お前じゃ割に合わんだろ」


 

 髪は茶髪のロングで編み込んだヘアスタイルだ。そして、クラスの全員が彼女に見とれてしまうほどの整った美しい容姿と制服の上からでも分かる豊満な胸。



「今日から転校してきた 堀北 琴葉ほりきたことは です。みんなのことをもっと知りたいので仲良くしてください!」


「というわけで、みんな仲良くしてやってくれ」 


 

 彼女が自分の席に向かう途中、やたらとみんなの視線が俺の方にまで集まるため多少居心地悪くなる。この子と一年間過ごさなければならないのかと思うと少し窮屈な気持ちにもなる。


 けど、実際に俺から見ても文句の言いようがないくらい完璧で、タイプかと聞かれたらタイプではある。印象もそこそこ悪くない。


 ただ、俺はこの子と対照的に地味でパッとせず、クラスの注目の的ではない……。



「おはよう、相席になるけどよろしくね」


「お、おう…」


 

 隣の席で間近で彼女を見るとなると全然違って見える。きめ細かな白い肌色に大きな瞳をして、言ってしまえば鑑賞用には打ってつけである。


 ——やっぱり、美少女というのはこういうものだろうか。



「ねえ、あなたの名前はなんていうの?」


 

 長い茶色髪をたなびかせながら、彼女の方から尋ねてくる。まぁ、聞かれたことには最低限答えるべきか。



「俺の名前は 小川 瀧おがわたき。瀧の漢字はさんずいに立じゃない方の龍という字を書く」


「へえ、瀧っていう字はそうやって書くんだ」


「画数は多いけどな」


 

 なぜかこの子と普通に会話ができていることに不思議と思う。もしかするとコミ力は俺よりも全然高いからかもな。



「じゃあ、瀧くんって呼んでいい?」


「別にいいけど」


 

 呼び方なんていうのは人それぞれで、その人が呼びやすいようにつけてくれても別に構わないし、呼び捨てにされたとしても気にしない、がさすがに変なあだ名をつけられると気にはする。


 そこで、彼女がさらに尋ねて



「瀧くんって趣味とかあるの?」


「特にない」


 

 今頃、趣味とか聞かれても普通にないと答える。



「好きな食べ物は?」


「甘いものが好きだな」



 こうみえて、俺は意外と甘党である。



「普段、休みの時間は何をしているの?」


「基本的に本を読んでる」


「へえ、そうなんだ」


 

 けど、俺の趣味や好きな食べ物とかを聞き出したって、彼女が退屈なだけだろうし、俺と関わったところでお釣りは返ってこない。


 俺と話すよりも他の人と話している方がよっぽどマシなんじゃないか。



「俺なんかと話して退屈しないのか?」


「全然退屈してないけど、どうして?」



 彼女は、俺に小首を傾げた状態でこちらを見る。



「俺は至って何か面白いことを話しているわけでなく、会話が弾むようなことをしてなければ、俺と話していても飽きると思ってな」


「そこまで求めてはないけど…普通に話ができればそれでいいんだよ」



 彼女が俺に暖かな笑みを向ける。



「そういうもんなのか…」


 

 そして、始業のチャイムが鳴り、教室は閑散とする。




 ようやく、授業が終わり昼休憩に入る。



「おーい!瀧!聞こえるか!」


「教室の外であまり大声を出すな」



 今、俺とスギは廊下でたむろっている。



「それで噂の転校生はどこにいるんだ?」


「今そこに座って会話をしている子だよ」


 

 目線を彼女に移し変える。



「ものすごく可愛いじゃねえか、いっそう瀧の彼女にしてしまえばいいのに」


「は、何言っているんだよ」



 そんなことを言われても、今の俺からしたら作る気はさらさらない。



「ちなみに俺は既に先約がいるからできないけどな」


「それは言われなくても知ってる」


 

 俺が現実に考えて、そもそも俺と彼女では住んでいるところが違う。


 俺の性格上、人と関わるような柄でもなければ、人と仲良くしていくようなたちでもない、勉強やスポーツだって並はずれてすごいわけでもなく、人並みにこなす程度でしかない。


 それと彼女とは長い付き合いになるわけでもない。



「で、彼女の方はどうなんだ?」


「それはどっちの意味合いだ?」


「彼女と付き合うことについてだ」


「なんで付き合う前提なんだよ!」


 

 この男は俺と彼女が付き合うことにしか頭にないのか。



「なら、彼女の印象はどうなんだ?」


「…別に悪くないんじゃないか」



 俺の返答を聞いたスギは



「一体お前はいつ偉くなったんだ」


「そこはどうでもいいだろ!」


 

 俺たちは教室から離れて屋上に上がり、昼食をそこでとるようにした。




「やっぱりここに普通にいるのか」


「もうここの常連だからな」


 

 地面にマットを敷いて座って待っていた女の子がいた。



「あれー、瀧くんじゃん久しぶり!」


 

 俺の目の前にいるのがスギの彼女 小桜こさくら 結衣ゆいだ。この女は、一見すれば見た目は良く、かなりモテる方ではある。



「もうすでに弁当を広げているんだな」


「どうだ、手際がいいだろ」


「余計なところではな」


 

 彼女が俺たちに視線を送り



「もう、そんなところに突っ立ってないで早くこっちにおいで」



 そして、俺たちはマットの空いているところに座る。




「で、例の転校生はどんな感じだった?」


「俺からだと上手く説明できないから、スギが代わりに説明してくれないか?」


「なんで俺に振るんだよ、そこは瀧の思ったことをありのままに話せばいいんじゃないのか?もしかして照れているのか?」



 俺にからかうような口調で尋ねてきた。



「ああ、分かったよ。俺からの印象だと普通に元気で明るい感じだった」



 結衣が、俺に顔を寄せてきて



「他には?」


「それ以上聞く必要ないだろ」


「なんでよ、もっとその子のこと知りたいじゃん!」


 

 そこにスギが割り込み



「瀧がタイプだってよ」


「へえ~、そうなの?」


 

 彼女が含みのある顔でこちらを見る。



「タイプまでは言ってないだろ」


「でも実際は可愛かったんでしょ?」


「ノーコメントで」


「やっぱり、可愛かったんだ」


「なんでそうなるんだよ」


 

 俺は二人の会話に振り回され続け、逃げ場がなくなってきている。


 どっちにしろカップルに挟まれている時点で、そうなってくるのは必然だ。



「でも早くしないとその子が他の人に取られちゃうよ?」


「俺は別に気にしてないが」



 ここで、スギが入り込み



「けどまぁ、どのみち決めるのは瀧だから俺たちがどうこういえないが、一応お前の先輩だからアドバイスはしてやれるぞ」


 

 少しの間を空けると次の話題に切り替えた。



「そういえば、来週からいきなり模試があるんだって」


「二年生に上がった途端にこれだもんな」


 

 二人は、勉強が得意というわけでなく。むしろ、学校の定期テストの成績では常に並みの下にいる。


 そして、二人にはテスト期間になるといつも手を焼かされる。



「けど、模試はなんとかなるだろ。俺たちが三年生になるまで一年もあるわけだからな」


「うん、そうだよ」


「本当に大丈夫かよ……」


 

 俺は二人の将来が気が気でならない。



「それと瀧くんは今日もアルバイトだっけ?」


「ああ、そうだよ」



 俺はいつもこんな感じで、学校帰りは決まってアルバイトをしている。



「大変だね、けど無理して体を壊したらダメだよ」


「それは、重々承知で」


 

 二人は彼の過労な生活に心配している。



「もし何かあったら俺たちにいつでも頼っていいぜ」


「おう…」


 

 そして、予鈴のチャイムが鳴ったと同時に弁当を片付けた後、教室に戻る。















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