脳髄雑記。

脳髄ぱんち。

第3話 カミュ『異邦人』

 かなり薄い本だが、何度か読むのを放棄してしまった本作だが、やっと最後まで読み終わったのでまとめたいと思う。

 なぜ、読む気にならなかったかというと、コロナで陰鬱な気分の時に初っ端から"今日、ママンが死んだ"から物語が始まるからだ。ちょっと心が死にそうだなと思ったので長らく放置してしまった。しかし、読み進めてみると薄いながらもめちゃくちゃ濃い内容で面白かった。


 軽くあらすじ。

母の死の翌日に海水浴に行き、女と関係を結び、映画をみて笑い転げ、友人の女出入りに関係して人を殺害し、動機について「太陽のせい」と答える。判決は死刑であったが、自分は幸福であると確信し、処刑の日にお大勢の見物人が憎悪の叫びをあげて迎え入れてくれることだけを望む。

 本作は、通常の論理的な一貫性が失われている男ムルソーを主人公に、理性や人間性の不合理を追求したカミュのデビュー作にして代表作である。


 本作は二部構成となっており、第一部での様々な事柄に対するムルソーの振る舞いと言葉が、第二部でムルソー以外の人間たちによって客観的に評価されていく。ムルソーという人間がどういう人間なのかを、時にはムルソーが蚊帳の外に感じてしまうほど入る余地がなく議論される。素直に生きているつもりでも、人間性が欠けていると思われるような言動をとると社会には馴染めない。ムルソーはコミュ力が欠如していたが、自分に素直でい続けた人間として最期を迎えた。

 

 ムルソーはすべてに関して無関心である。それゆえに正直である。結婚を申し入れられたら承諾する、しかし彼女を愛してはいない。この言動に彼の性格は端的に表れている。彼は死に直面したときを除いては、すべてにおいてうわの空なのである。死刑が宣告され、斬首の執行が迫る中、彼は自分は幸福だと述べた。彼は死に直面することで、今まで自分に纏わりついていた「非現実感」から逃れたのである。だからこそ幸福だと感じたのだと思う。


 ムルソーが検察官に追及されるシーンでは、彼が普通でないということだけを強調して、とてつもない罪を犯した罪人だとし、人々の感情を煽るような言い方が読んでいてすごくこの本位怒りたくなるポイントであった。親の葬儀に泣かないやつは凶悪犯の素質があるなどそんなことは一概には言えないはずである。少数派、少しでも変わったやつは異端だと切り捨てるのはまったくごめんである。

 主人公位階の全ての登場人物は人間です。ムルソーは端からみれば狂人であるが、彼の行動はいたって正常である。人の理性や常識の正しさに囚われ、思考や行動をしている。しかし、その理性や常識は果たして本当に正しいのか、人間はどうしても一貫した正しさを認めることができない生き物なのだと思った。

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