第6話 実力行使
弟……だって?
じゃあ姉弟で
「分かった? 知られちゃいけない理由が」
ああ、分かったさ……確かに誰にも知られてはいけない秘密だ。
「……それで俺の、口封じを……しようって……そういう事ですか?」
「その通りよ」
先輩はそう言うと、弟に拘束を緩めるように指示をする。
頭を押さえつけていた手がどかれて、背中にかけられていた力も少し弱まった。
圧迫されていた肺に余裕ができ、呼吸が楽になる。
ちゃんと会話をしろと、そういう事だろう。
「わざわざそんな事しなくても、俺は絶対に喋ったりしませんよ」
俺がそう主張すると、先輩は不満そうな表情を見せる。
「だから言ってるじゃない、信用できないって」
「……どうやったら信用してもらえますかね?」
「そんな必要はないの……君を脅す材料があればね……」
先輩は淡々と喋る。
「もし私達の事をバラしたら『君はもっとひどい目に遭うぞ』って、そういうのが欲しいの」
声に抑揚は無く、それが逆に怖い。
「
普段は美しいはずの先輩の顔も、今は戦慄を覚えるばかりだ。
「わかった?」
俺を見下す先輩の瞳に光は感じられない。
「…………それで……俺をどうするんですか……」
俺は諦めたように聞いた。
「それは今考え中……取り合えずスマホを出してもらえるかな? 録画されてないか調べるから」
「……カバンの中に入っています」
先輩は俺のカバンの中からスマホを取り出す。
「ロックを掛けていないなんて不用心じゃない?」
「……そう、ですね……」
今この状況でそんな正論を言われても反応に困る。
「………………」
先輩はサラサラとスマホを操作していき、問題の動画が無いかを調べる。
盗撮をしたわけではないので動画など入ってはいないのだが、鋭い眼光でスマホをチェックしている先輩を見ると少し緊張してしまう。
「写真や動画は……撮ってないようね」
その言葉とともに先輩の表情が幾分やわらかくなったように見えた。
盗撮されていないと分かって少し安心したようだ。
「……それにしても、ずいぶんと面白みの無いスマホじゃない。アプリとかも全然入って無いし」
「……あまり使わないんで」
俺は必要最低限の連絡でしかスマホを使用しない。
一番使っている機能は時計とアラームだ。
「もったいないと思わない? 使いこなすとスマホってすごく便利なのに」
「あまり興味はありませんね……」
「それじゃあ興味の出る面白い使い方教えてあげようか?」
あまり知りたくはないな……
「最近はね、いじめでもスマホが使われるの」
先輩の口元は俺に微笑みかけてくるが、目は笑っていない。
「……それを俺にやろうって事ですか?」
「それは君しだいかな」
先輩は意地の悪い笑みを浮かべる。
「全裸でダンスする動画を撮られるのと、女子を隠し撮りした盗撮犯にされるのとで、どっちがいい?」
頭がおかしいのか? この女……
だんだん頭が痛くなってきた。
どうすりゃこの状況から逃れられるんだ……
「………………俺を盗撮犯にしたら、道連れに先輩たちの事バラしちゃいそうですけど」
「盗撮するクズの言う事なんて誰も信用しないでしょ?」
確かに、言われてみたらその通りだ。
「ま、君がそんな心配をするなら、両方にしてあげてもいいのよ?」
「…………それは魅力的な提案で……」
全裸で踊る盗撮犯か、今後が楽しみな逸材じゃないか。
「それじゃあ、まずは全裸になればいいんですか?」
俺がそう聞くと、先輩は面白くなさそうな顔をする。
「あのね澄谷君……私は君の嫌がることがしたいの」
先輩はこの場にそぐわない優しい声でそう言う。
「そんな態度をとられると、もっと酷いことをしたくなるじゃない?」
それより酷いことが他にあんのかよ。
ドSの才能あるんじゃないか、先輩。
「……十分に嫌がってるんですけどね……」
どうせ俺が何言っても受け入れやしないだろうよ。
抵抗するのがアホらしいだけだ。
「君はあまりスマホを使わないって言ってたけど、放課後になってからチェックはしたの?」
「……はい?…………してませんけど、それが今と、何の関係があるんですか」
「ちゃんとチェックしていれば、こんな事にならなかったのにと思ってね」
何が言いたいんだ、この女は……回りくどい言い方に腹が立つ。
言いたい事があるなら端的に言ってくれ。
「…………意味が分からないんですけど」
俺が聞くと先輩はスマホを持って俺の方に歩いてきた。
――そして俺の目の前にスマホをかざし、ある画面を俺に見せてきた。
『お兄ちゃん今日は生徒会が無いんだよね? 一緒に帰らない?』
由衣からのメッセージだ。
「今朝会った由衣ちゃんよね? これ」
「……」
俺は何も答えない。答えられない。
背中にゾクゾクと悪寒が走った。
この女が何を言おうとしているのか、想像がついてしまったからだ。
「由衣ちゃん、可愛いわよね」
「…………」
先輩は俺の表情を見て、嬉しそうな声をあげる。
「由衣ちゃんは今何をしているのかな?」
「…………」
――人を本気で殴りたいと思ったのは初めてだ。
「由衣ちゃんがもっと早くメッセージをくれたら、こんな事にはならなかったのにね」
「……てめえ、何が言いたいんだよ」
――嬉々とするこの女の態度に、頭の血管が切れそうになる。
「貴志、しっかり押さえつけておいて」
弟は抑え込む力を強めた。
俺は目一杯の力を込めるが、身体はまったく動かせない。
「動くな、腕をへし折るぞ」
弟は俺の腕の関節をとり、力を込める。
「ぐっ……」
腕の痛みで力を入れられない。
俺はただ先輩を睨み続けた。
先輩は笑いが抑えられないといった表情だ。
反吐が出る。
「ねぇ……由衣ちゃんにも責任とってもらおうか」
「由衣は関係えねえだろ!!」
「可愛い妹のグチャグチャになる姿、見て見たくないの?」
「ふざけんな!! これは俺の問題だろ!!!」
――今すぐこいつらを殴り飛ばしたいのに、それが出来ない弱い自分に腹が立った。
悔しくて、悔しくて、ほろりと一筋の涙がこぼれる。
「……なに? 泣いてるの? 泣きたいのはこっちなんだけど……覗きをしていた変態さん?」
「…………くそったれが……」
――先輩は笑い続ける。
「言ったでしょ?『
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