第2話 妹との通学路

 家族での朝食を終えたら由衣と一緒に学校へ向かう。

うちの家族は朝食をみんなで食べるので、家を出る時間も自然と同じになる。

そして同じ学校に行くのだからと、一緒に登校するようになった。

 まあ、わざわざ別々に登校する理由も無いしな。


 通学時間は徒歩で30分くらい。

 自転車で行けばもっと早く着くのだが、朝はゆっくり歩いて行くのが性に合ってる。

 由衣と会話しながら歩くのも気に入ってるしな。


「なあ、由衣」


 隣を歩いている由衣に話しかける。


「お前さ、部活とか入るつもりないのか?」


 こいつは今まで部活というものに入ったことが無い。

小学校、中学校とずっと帰宅部である。


 最近は新入生向けに各部活の勧誘も盛んに行われている事だし、興味のある部活とかは無いのかどうなのか気になるところだ。


「んー、特にないかなあ……」

「そうか、じゃあ高校でも何もやらないのか」

「うん……勉強もついていけるか不安だし……」


 由衣は少し俯きながらそう言った。

 勉強には自信が無いらしい。

 

 思えば高校の受験勉強も俺が付きっ切りで教えたもんだ。

 由衣は一人ではなかなか勉強をしようとしないからな。


「よく言うよ。ゲームばっかりやってるくせに」

「そ、そんなことないよ!」

「どうだかな」


 由衣はゲーム好きだ。

 だいたい空いている時間はゲームをやっていることが多い。

 リビングのTVラックにある据え置きゲーム機がお気に入りだ。協力プレイや対戦プレイが出来るやつを好んでやっていて、俺もよく付き合わされる。

 まあゲームは嫌いじゃないし楽しいからそれは良いのだが……


「家でゲームも悪くないけどさ、部活とかで青春を感じるのも良いんじゃないか?」


兄としてはさ、もっと活動的に学生生活を満喫して欲しいわけで……


「部活は大変そうだし……」

「その大変なのが良いんじゃないか」

「お兄ちゃんだって部活入ったこと無いくせに……」


 確かにその通りだ。俺もずっと帰宅部であった。

 しかし今の俺は少し違う。


「俺は生徒会に入ってるし」


 そう生徒会である。

 しかも副会長だ。

 ……とは言っても生徒会なんて特にすることも無いんだがな!

 名前だけのお飾りだ。


「……どうして急に生徒会なんて……」


 何やらブツブツと由衣がつぶやいている。


「部活やってないならさ、放課後とか友達に遊び誘われたりしないのか?」


 どっかにスイーツ食いに行ったりとかさ、カラオケ行ったりとか、そのへん女子の交流とか色々あるでしょ。


「家に籠ってゲームしてたって友達出来ないぞ?」

「友達ならいるよ!……もう、失礼な……」


 由衣にムッとした表情で返される。

 確かに中学校でも友達は多かったな、こいつ。結構すぐに人と打ち解けるタイプだし……

 しかしだ、高校でもそう上手くいくとも限らない。人間関係は水物だ。


「本当か?俺は心配だぞ?お前放課後はすぐ家に帰ってくるし、友達付き合いが上手くいって無いんじゃないのか?」

「お兄ちゃんだってすぐ帰ってくるじゃん!」


 鋭い突っ込みだ。

 まあ生徒会なんて毎日あるわけじゃないしな。確かに俺も学校が終わったら直帰するタイプである。


「俺は男だから大丈夫なんだよ」

「……意味わかんない」


 由衣は不満そうに唇を尖らせる。


「ほら女子はそこらへん厳しそうじゃん?帰宅部のくせに付き合いの悪い奴とか思われたら大変じゃないか?」

「……そんなことないよ」

「ハブられるかもしれないだろ?」


 俺があーだこーだ言うたびに、由衣の表情が険しくなる。

 いかんな、怒らせてしまっているぞ、これは。


「もう、お兄ちゃん過保護すぎ!」

  

 すっかり機嫌を損ねてしまったらしく、由衣はスタスタと歩を早めて行ってしまう。

 そして慌ててそれを追いかける俺。

 由衣を怒らせたままにしとくと後が怖い。家庭内での居心地が凄く悪くなるんだよ……


「ごめん由衣、言い過ぎた許してくれ、俺が悪かった」


 俺が必死に謝ると由衣はピタリと止まり、俺の顔をジトっと見つめて……


「わかればよろしい」


 そう言って満面の笑みを返してくれる。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る