第36話 違和感
「久しぶりだな」
「うん」
俺と新田は横に並びながら、会話を交わす。
俺は、新田が両手に抱えて保持していたペットボトルを何個か受け取り、現在、半分こする形式でお互いに新田が購買したペットボトルを持っている。数としては、俺が、4個(自分が買った分を含めて)と新田が3個だ。
俺たちは、目が合った後、少々会話をし、流れで同時に校舎の中に入り、今現在、階段を上がって自分たちのクラスの教室があるフロアに向かっている。
この学校の2年生のクラスは、7クラス存在し、3クラスが理系、4クラスは文系に分かれている。より詳細に言えば、A~Cまでは理系で、D~Gまでが文系である。
この高校は、普通科のみしか学科が存在しないため、このよう形でクラス分けが行われている。
また、理系と文系のクラスは異なるフロアにそれぞれ存在し、理系は、2階、文系は3階に教室が位置づけられている。そして、俺は、文系である。
そのため、俺の教室は3回のフロアに存在する。口を開かず機械のように同じリズムで階段を登りながら、新田の方に視線を向ける。
新田。
俺が所属していたバスケ部に今現在でも所属していると考えられ、柔和な顔つきをしている。
新田は、身長が俺と変わらない割に、あまりテクニックがなく、その上、バスケットボールでは非常に重要である体の強さも所持していなかった。そのため、部の中では、俺の次にバスケが下手だった。
おそらく、俺が部でワースト1位だったのであり、その次は新田であっただろう。
そのため、俺たちは、入部してから、一度も試合に出る権利を示すユニフォームをもらったことがなく、試合で同級生の生徒や先輩が活躍する姿をコート外で毎回応援していた。あの時は、自分の才能や実力の無さを見せつけられる感覚を感じて、嫌な感情を抱いていた。
しかし、今では、同じことを体験したくは決してないのだが、少し懐かしいとさえ感じてしまう。
観戦者用のエリアでメガホンを使用して大きな声で応援していた過去の場面が脳内で思い起こされる。
その場面の俺や新田は必死に汗を数滴の汗を流しながら、するべきことに勤しんでいる。コート内では、選べた人間だけが立っていた。
「なんで、そんなに買ったんだ?」
俺は、新田を視認する前から気になっていたことを疑問形で口にする。
その声は、ぼそぼそとした声ではなく、付近に実存する人間には聞き取れるような声の大きさであった。そのため、俺の言葉は、新田に届き、彼は階段を上がる動作を止めずに、視線だけに俺に向けてくる。
「・・・あ、ああ。ゲームで負けた罰ゲームのせいだよ」
新田は謎の間を作った後に、歯切れの悪い返しをしている。
俺は、その返答にいささか違和感を覚えた。しかし、新田の目は泳いでいるわけでもなく、何かを隠しているような素振りは表面から窺うことはできない。
だが、決定的な証拠はないが、新田は何か言えないことを心の中に留めている気がする。それは、表面からの情報では決して見えないが、新田が発するオーラというか、発する空気というか、言葉では言い表せないモノから俺はそのように察した。
「じゃあ、俺、このフロアだから」
俺が、追加としていくつかの質問をしようとしたときに、新田は別れを告げる言葉を俺に対してかけてきた。
新田は、俺が持っているペットボトルを渡すように言ってくる。俺は、望みに応えるように、自分の分以外の飲み物が詰め込まれたペットボトルをまとめて新田に流し込むように手渡す。
新田はそれらを落下させないように大事に受け取ると、抱えるようにして再度両手で所持する。その姿は、かなり神経をすり減らしていることが推察できる。
「ここまで、ありがとう」
新田は、俺にお礼を伝えると、返事を待たずに、クラスに向かって歩を進めていった。
俺は、なぜか新田をかわいそうに思いながら、新田の離れていく後ろ姿を眺めていた。
そして、日は進み、いつもと同様に、飲み物を購買しに馴染みのあるエリアに足を運んだとき、再び、自動販売機の前に滞在する新田の姿を目にしたのだった。
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