(二)‐6

「とにかく!」

 新津は俺に人差し指を向けた。

「次連絡来たら、間違いなく金貸せって言ってくるから。きっちり断りなさいよ! 特に酒が入って『私酔っちゃったー』とか体をもたれかけてきて『お願いがあるのー』なんて、言ってきたら赤信号よ。絶対要注意なんだからね」

「まあ、そうだな。気をつけるよ」

「いい? あんたには奥さんと子どもがいること、忘れちゃダメよ。あんたが幸せにするのは、その二人なんだからね」

 そう言いながら、新津は俺に人差し指を向けたまま立ち上がった。

 それでなくてもデカイ声なのに「奥さん」と「子ども」のところについては、さらに大きな声だったので、周囲の客が何事かとこちらに顔を向けてきた。それなので、俺は「わかったわかったから」と新津を落ち着かせた。

 新津は座って「私はそういう実例を身近で見て来ているからね」と続けた。

 そうこうして、俺たちは退店し、別れた。

 そもそも水上咲良とは連絡先を交換はしたが、すぐに連絡があるとは限らないし。確かに気をつけた方がいいかもしれないが、その機会が訪れるかもわからなかった。まあ、久しぶりの共通の知人の話題で、新津も思わず盛り上がってしまっただけかもしれない。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る