第21話
10月7日土曜・・・午後10時41分
「麗子先輩・・・これからどうします?」
長い間していた、部屋の調査を止めたのは、加藤の一言だった。
「そうね、とりあえず、今日は、この村に泊まるしかないわねぇ」
「やっぱ、そうっスよね・・・」
加藤の顔が、少し曇る。
「何、怖いの?(笑)」
「そんな事ないっスよ。ただ、僕・・・枕が変わると眠れないんスよ」
「何言ってんのよ、その前に枕なんて、どこにあるの(笑)」
「そうっスね(笑)・・・でも、この部屋で寝るんスか?」
加藤は、周りを見た。
確かに部屋は荒れ果てており、何とも言えない不気味さと、異臭が漂っていた。
「確かに、この部屋じゃ無理ね・・・」
「じゃあ、別の部屋を探しましょうよ」
「いいけど、多分、無駄になるかもね・・・」
「確かにそうかもしんないっスけど・・・」
麗子が、こんな事を言うには、理由があった。
それは今まで、2人が調査していた家6軒、その全てが今のように荒れ果てていたからである。
「せめて、枕のある部屋があれば・・・(笑)」
「そうね(笑)」
2人は、その部屋を出ようと、ドアに手をかける。
“ギィィィィィイ・・・”
何度聞いても、慣れる事が出来ない耳障りな音と共に、ゆっくりとドアが開いた
外は、真っ暗である。
2人は、まともな寝床になる家を探した。
“ザクッザクッザクッ・・・”
「そうだ、前から聞きたかったんスけど、麗子先輩は、なんで刑事になろうと思ったんスか?」
移動中に、加藤は麗子に聞いた。
「あれっ?言ってなかったっけ?」
「えっ?聞いてないっスよ」
「そうだっけ?まぁ聞いてなかったんだったら、言っておくわ」
麗子は、刑事になった理由を加藤に話始めた。
「ウチの両親、2人共刑事だったの」
「それは知ってますよ!署内じゃ有名じゃないですかぁ(笑)」
「2人の事知ってるなら話は早いわね。」
2人は、話ながら村の中を歩いた。
「あの2人が追っていた組織の事は知ってるわね?」
「はい。確か、世界各国を裏で操ってる謎の巨大闇組織・・・」
「そう。私の両親はその闇組織を追って、組織の何者かに殺されたの」
「え?でも死因は確か交通事故だって・・・」
「違うわ。殺したのは、間違いなくアイツら・・・巨大組織“陰狼(かげろう)”」
「かげろうッ?!名前までわかってたんスか?」
「えぇ、両親が残した奴等の情報・・・それはこの名前と、6つのグループに別れている事のたった2つだけ・・・」
「でも、そこまでわかってるんだったら、なんで逮捕しないんスか?」
「いくら奴等の周りを潰しても、組織の中枢、つまり本部を叩かないと、無駄なのよ」
「わからないっスよ!なんで周りを潰せば、いずれは本部に辿り着くんじゃ・・・」
「そうやって私の両親は、死んだの・・・」
加藤は少しうつむいた。
“ザクッザクッ・・・”
人気のない、静かな村の中を2人は黙々と進んでいた。
「今から言う事は、私と加藤君の2人の秘密よ。私達の職場(警察署)内に陰狼のメンバーがいるわ」
「まさか、そんな訳無いっスよ」
「いいえ、これは本当の話・・・加藤君がウチに入って来た5年前、風戸 仁を捕まえたのは覚えてるわね」
「はい、初逮捕だったですし奴の事は絶対に忘れませんから」
「じゃあ、奴の刑罰に疑問を感じない?」
「確かに、あの大量殺人鬼が懲役30年は短過ぎるような・・・普通でいくなら、処刑・・・軽くて終身刑だと思います」
「でも、懲役30年・・・おかしいと思わない?」
「ですけど奴と、署内に陰狼のメンバーがいるという事に、どうゆう関係が・・・」
「これは極秘事項だけど、奴の自問が終わった時、ボソッとこう言ったの・・・「組織に復讐してやる・・・すぐにこっから出てやるよ」って・・・その時、私はこう言ったの「あなたは一生、牢獄で過ごすのよ」・・・するとアイツは薄く微笑を浮かべながらこう言返して来た・・・」
「すぐにわかるぜ」
加藤の表情が凍りついた・・・
「奴はその時、組織と自分が繋がっているのを認めたの・・・」
「でも、その組織が陰狼とは限らないんじゃ・・・」
「バカねぇ、考えてもみなさいよ、仁に殺された被害者達を・・・大学教授や新党を設置した政治家、街で有名な名医、TV局の社長、ヤクザの幹部など、どれもある程度の権力と財力がある人間ばかり・・・」
「確かに、“普通”の大量殺人鬼なら、ターゲットは、誰でも構わない。だけどあえてそういった人間を狙った。つまりそれは、仁が狙ったんじゃなく、組織の命令・・・」
「そう・・・だけど、仁と組織との間に何かが起こった。今までそういった人間を殺していた仁がある日突然、銀行強盗を行い、その時の仲間に裏切られ私達に逮捕。これは推測だけど、組織は自分達以外の手で仁を処分したかった。そこで組織は仁に気付かれずに命令を送り、銀行強盗失敗に見せかけて、見事警察に閉じ込めた」
「そうか・・・組織はあくまで裏の存在、決して表に出ては行けない存在、だから自分達の手で、当時誰もが恐れた、大量殺人鬼を処分せず、あえて犯行失敗に見せかけた。もし仁が、何者かに殺されれば、警察は間違いなく組織の存在にいつか気付くから・・・」
「でも、わからないっス・・・」
「なにがよ?」
「一度は、仁を処分するつもりだった組織が、なんで自分達のメンバーが、警察にいるって教えるようなリスクを冒してまで、仁の刑罰を軽くしたのか・・・」
「それは、私にも分かんないわよ。自分達の手が警察にまで及んでいる事を仁に悟らせる為かも・・・ただ、間違いなくこの警察上層部に奴等・・・陰狼のメンバーがいる」
「そうっスね・・・」
「そうだ、話を戻すけど、私が刑事になった理由は、両親を殺した組織を、私の手で潰す事。一言で言えばこうだけど、なんで刑事なのかは、さっき説明した通り・・・」
「そうだったんスか・・・ん?」
気付けば2人の足はある家の前で止まっていた。
その家は、他の家と違い“まとも”な感じだった。
麗子は、無意識にその家の扉に手をかける。
そして、ゆっくりと開く。
さっきまで、この時に聞こえるはずの耳障りな音は、全くしなかった。
麗子は、持っていたペンライトで部屋の中を見渡す。
しかし、これといって異常は見当たらない。
「変ね・・・」
「そうッスね・・・」
“何も知らないの人”がこの部屋だけを見れば、何も異常は感じられないと思う。
だが、2人は、確かにこの部屋の不自然さに気付いていた。
そう、この村では異常がない事の方が、異常なのである
「なんでここだけこんなにきれいなのかしら・・・」
そこは、2人が見て来た6軒の家とは違い、ガラスの破片一つ無い全くの別世界だった。
“カチッ・・・ピカッ”
おもむろに、加藤は電気のスイッチを入れた。
すると、眩しい光が、電球から溢れだし、部屋の隅々を照らし出した。
「びっくりしたぁ!」
「なによ、加藤君がつけたんでしょ!私の方がびっくりするわよ」
「ああ、すいません。でも、なんでなんスかね、他の家みたいに全然荒れて無くて、電気まで・・・まるで違う世界猫いるみたいっスね(笑)」
「まぁでも、寝るところが見つかったって思って、あまり考えないでおきましょ」
「はい・・・」
麗子も、もちろん何故こんな場所が存在するのか、疑問に思わないはずもなかった。だが過去6軒の長時間の探索で、麗子もさすがに疲れを見せていた。
「じゃあ私、このソファーね」
「えっ?」
「なによ、何か文句ある?(笑)」
「あ、いや、はいっ!どうぞ・・・」
疑問が募ったまま、2人は眠りについた。
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