異世界モノが嫌いな人が異世界モノ書いたらこうなりました!
@hatcollecta
第1話 ハロー・異世
理由、なんてものは特になかった。不満なこともなかったし、問題もなくダラダラ……という擬音が似合うような生き方をしてきた。
”何故こんなことに?どうして?“そう大人たちは言うのだろう。でも理由なんてただ、飽きたからでしかない。イジメを受けていたわけでも、親から虐待を受けていたわけでもない。ただ……不意に空を掴めるような気がして、僕は夕焼けで染まった街を一望するように高校の屋上からそっと---飛んだ。
人間の落下速度は、460mから落ちれば約190kmと昔聞いたことがある。
僕が飛んだ高校の校舎は4階建てで、だいたい13mくらいだろうか。とても190kmには届かないだろうが、自由落下を楽しむくらいはあるかななどと考えていたが2、3回瞬きをする間に僕の身体は職員室前の花壇に酷く大げさな音を立てて激突………しなかった。
「なんだ……これ? ここは……どこだ」
見慣れた景色は消え去り、青空のように真っ青な空間がただただ広がるばかりだった。全身がふわふわするような感じがして、自分が溶け出していくような奇妙な感覚が全身を包んだ。不思議と恐怖感はなく何処か懐かしいような気がして、僕はそっと目を瞑った。
そして「ダイスを振ってください」と言う声が響いて----そこからは覚えていない。
これが、僕が覚えている転生するまでの経緯の全てだ。
「ようこそ、第7番目の候補生様。これより学舎にて立派な旅立ちを迎える為の訓練を受けていただきます」
「は? え?」
僕とソレとのファーストコンタクトは、酷く奇妙なものだった。創作物でよく見かけるような、中世ヨーロッパ然とした城下町の往来のど真ん中で、仰向けに大の字で寝転がる僕を、ソレはニヤニヤした顔で見下ろしていると言うものだ。
ニヤニヤ……というのは語弊がある。ソレに顔はなく、麻袋を被った燕尾服を着ただけの人型の何かだった。白手袋の隙間からチラリと覗く地肌は錆色で、ソレが人間ではないということを物語っていた。状況が飲めずに辺りを見渡してみたが、街の住民だろうか。街並みに合うようなイメージ通りの中世風な質素な服を着た人々が僕たちをチラチラと見ていた。しかし、その目は“あぁまたか”とでも言うように興味無さげで、ほんの一瞬チラッと見たかと思うとすぐにそっぽを向くか屋台や出店のようなものに意識を向けていく。
「ここは……どこなんです? あなたは、誰? 僕は確か飛び降りて……」
「えぇ! えぇ! ソレはソレはもぉ見事な飛びっぷり!! 私カンドウさえ覚えました!!」
ソレの声はどこか怖気や苛立ちさえも覚えるような声色だった。簡単に説明すると、君が思い浮かべる中で一番ムカつく奴の声を思い出して欲しい。ソレが奴の声色だ。
「いや、だから……!ここはどこなんだよ!?」
「おっと……これはこれは失礼致しました……突然のことでまだ錯乱しておられる……」
お涙頂戴とでもいいたげな哀願をこうような声色でそう言ったかと思うと、ソレは大げさに肩を竦めてさも申し訳なさそうに深々とお辞儀をしてみせた。大根役者も鼻で笑うような滑稽な動作の連続に、どこか呆れて……というよりは白けてしまった僕は、ゆっくりと立ち上がってソレを見据えた。
「貴方は一体だれなんです? さっきから何度も聞いてますよね、僕。ここはどこなんですか!? いい加減答えてください!!」
自分でも驚くような大声でソレを怒鳴りつけた。僕は普段声を荒らげるたちではないし、怒りを露わにするタイプでもない。ただ今回ばかりは別だった。おそらくソレが言うようにどこか錯乱しているのだろう。そんな風に合っているのかもわからない自己分析のようなものをしてみる。
「話せば長くなりましょう。歩きながらゆっくりとご説明申し上げます」
僕が精神科医の真似事をして意味のない自己分析の真似事をしていると、ソレは付いて来いとでも言いたげに僕に手招きをしてゆっくりと歩き始めた。
「まずは私の名前から申し上げ……ることはできません。私、名前がないのでございます」
名前がない。それは一体どう言うことなのか。
「名前がない。と申しますのは、私が人ではなく造られた存在だからでございます。言うなればゴーレムですな」
「ゴーレム……」
「おっとゴーレムをご存知ありませんか。ゴーレムと申しますのは」
「いや知ってます。いいです。ゴーレムの話は」
態とらしく胸を反らせてゴーレムについて語ろうとしたソレを僕は慌てて止めた。経験則でわかるが、この手の手合いは一度話が脱線したり蘊蓄を語り出すと異様に長いのだ。僕はそれを知っている、嫌という程。
「それより候補生って何ですか」
まずは一番気になっていることについて質問をした。候補生に学舎。響きだけ聞けば学生まがいのことをさせられるようだが、実際のところはよくわからないのだ。
「候補生でございますね。候補生。それは若くして命を絶った異界の若者や、己の死の原因を自ら作り出してしまった7人の若者を異界より召喚し、人類の切り札として訓育することにございます」
仰々しい言い回しではあるが、かいつまんで言えば僕のような自殺者や自業自得で死んだやつらを召喚して訓練をすると言うことだ。しかし……人類の切り札、とはどう言うことだろう。少なくとも僕には特別な能力は何もない。だから僕は……飛んだのだ。そんな自分も日常にも飽きて。
「あの……僕には別になんかすごい能力とかないですよ?喧嘩もしたことないし。人類の切り札?とか言ってますけど……少なくとも僕は切り札じゃなくてお荷物にしかならないと思いますよ」
自嘲と自虐を込めて疑問をぶつける。ソレはないはずの“顔”をさも楽しそうに歪めて、
「切り札ですとも貴方様も間違いなく!! 候補生は皆すべからく否が応でも特別になるのです。安心してくださいませ。貴方様のように秀でたものの無い凡人だった者が英雄になる様を私は幾度も観て参りました!!」
そう言い放つ。秀でたもののない凡人という台詞には少しイラっときた。堪忍袋に小さく穴が開くような感覚がした。自虐する分にはいいが、他人に凡人だの無能だのと呼ばれたくはない。
「……その切り札ってのはなんなんですか。何かと戦ったりでもするんですか」
不機嫌さを隠そうと思ったが、相手は所詮ゴーレム。木偶人形だと思えば上っ面という仮面を被らずに感情をぶつけてもいいかと思い、僕は先ほど言われたセリフへの苛立ちを隠さずソレに切り札について尋ねた。ソレは僕の不機嫌さにも苛立ちにも気付いていないのか、それとも敢えて無視しているかはわからないが、例のムカつく声色でまた話し始めた。
「候補生は魔物との戦いにおける人類の希望なのです!!今人類は!!そして人類を統べるヒュンノム王国は魔王軍との全面戦争状態にあるのでございます!!!それら悪鬼羅刹異形化け物馬鹿者!!ソレらをなぎ倒す!!ま・さ・に!!切り札!!!!あぁ!!候補生に祝福あれぇぇぇ!!!」
やめてくれ。周りの目線が痛い。やめてくれ、頼むから。僕の懇願も虚しくヒートアップしたソレはいわゆるカッコいいポーズのようなものを、ビシッ!という擬音が生まれたことを後悔しそうな雰囲気で思い切り決めた。
……しかし、僕はどこか興奮を抑えられずにいた。決してソレのステップに感動したからではない。“魔王軍”“なぎ倒す“この二つの言葉だけで僕を興奮させるには十分だった。謳歌し飽きた平和な、生き飽きた平凡な日常とは違うその響き。戦いへの恐怖心などと言うものはなかった。死への恐怖心などと言うものも当然なかった。ただ心に湧き上がったのは、優越感とも万能感とも言い難い、喜びにも似た感情の高鳴りだった。
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