第27話

アンに抱えられた私を狙って大猪が突っ込んでくる。犬っぽいモンスターと同様に、大猪は私だけを狙ってきていた。やはりウリ坊を縛りつけたのが私だからかそれとも…、いや今はこの大猪に集中しよう。


「ゔぉ…‼」


そこへウンが大猪の真横から攻撃をして突進の軌道をずらす。

軌道のずれた大猪は私のすぐ横をすり抜けて近くにあった木をなぎ倒す。


…一回食らったが私はあんなの受けたのか、もう二度と食らいたくないな。


大猪に足をやられた私は今現在アンに抱えられて湖まで退却中だ。

今のところ私に向かって突進してくる大猪をウンが何とか対処してくれているので問題はないけどここから先は…、


「「「「グルルルル…、」」」」


「ですよねー。」


覚悟はしていたが先程双子が蹴散らしていた犬っぽいモンスターと出くわしてしまった。しかも運の悪いことに見える範囲内で10匹はいる。ウンは大猪で手一杯で犬まで相手に出来ない。私の呪いもあと何発か放つことはできるが一度に来られると対処できない。


「バウ‼」


と、群れの内4匹が同時に襲い掛かってくる。


「ゔぁ‼」


私を抱えたままアンが4匹を相手する。私のせいで腕が塞がっているので3匹を蹴り倒し、そして最後の1匹は…。


「ブゴォ‼」

「キャイン!?」


運の悪いことに突進してきた大猪の進路上に飛び出してしまい、私たちに襲い掛かる前に吹き飛ばされてしまった。


「バウ‼バウ‼」


それを見ていた他の犬っぽいモンスターたちが一斉に大猪の方を向いて吠えたてる。どうやらターゲットが私たちからより強力な大猪に移り変わったようである。

ラッキー‼


大猪も流石に群れに囲まれれば足止めになるだろう。私たちは湖に急ぐのだった。










その後、何度かモンスターの攻撃を回避しながら獣道を抜けなんとか湖までたどり着くことが出来た。

しかしホッとするのも束の間、複数の塊が森から飛んでくる。

それは、大猪に吹き飛ばされた犬っぽいモンスター達だった。

「ブゴォ‼」


次の瞬間私たちが通ってきた獣道を無理やり広げ、木をなぎ倒しながら大猪が私たちに突進してきた。

ウンが果敢にも大猪を止めようと踏ん張るがそのまま吹き飛ばされた。

ええい、休む時間も与えてはくれないか。


「アン‼そしたら私を湖に向かって思いっきり投げて‼」


彼女の程の力があれば私を湖の底が深い場所まで投げ飛ばせるだろう。


「ゔぁ!?」


「いいから、やるの‼」


大猪のターゲットは私だけなのである。そして今までの行動から、大猪は例えそこに邪魔な障害物があろうともこの私を追いかけまわしてくるだろう。

そういうことならば、それをうまく利用する。


「ゔぅ…、ゔぁ‼」


どうなっても知らないぞ‼とでも言うようにアンは私のことを思いっきり湖へ投げ、同時に大猪が私めがけて突進してきていた。


「アン!?」


大猪の突進を食らってポリゴン化して砕け散るアンを視界に捕らえて私は空中で思わず叫ぶがすでに手遅れだった。次の瞬間、私は湖の丁度真ん中付近に着水し口から水をたらふく飲んでしまった。だが、そのおかげでアンがやられて真っ白になっていた頭を正気に戻すことが出来た。


大猪の方は湖にいる私を確認するとすごい勢いで水中に入っていった。


大分前ではあるがイノシシが泳いで島から島へ渡ったというニュースを見たことがあった。だから例え私が水中にいようが追いかけてくる可能性があるのは分かっていた。

しかし、今私を追いかけている大猪はニュースで紹介されていた個体よりも遥かに大きく、重い。いくら湖とは言え脚を必死に動かして前に進むのがやっとのようである。



「『拘束の呪い』‼」


私も必死に片足をばたつかせながらナイフを構え、呪いを発動させる。

ナイフの先から飛び出した縄は先程と同じように大猪を拘束する。

ただし


「ブゴ!?ガボボ!?」


突然動きを制限された大猪は湖に沈んでいく、水中だから勝手が違うのか拘束を外そうとするもそれもうまくいかないようである。

あれよあれよという間に胴体が、頭が、最後に鼻が水中に沈んでいき、この後再び大猪が浮かんでくることはなかった。


『チャレンジ:怒れる大猪を達成しました。メニュー画面より報酬を確認してください。』

頭の中でそんな声が聞こえるがこちらも体力の限界である。


私も大猪同様に湖に沈み始める。


…来世はもっとモフモフを愛し、愛される存在になりたいな。

湖の底へ沈みながら、薄れゆく意識の中でそんなことを思っていると不意に私の右腕が引っ張られた。


「一体何考えてんのよお姉ちゃん!?」


私を水面に引っ張り出すために全身ずぶぬれになったフッカが叫んだ。


運のいいことにどうやら私は生き残ることが出来たらしい。

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