第26話
「ブゴオオォ‼」
やばい‼
「また来た‼二人ともお願い‼」
次の瞬間小山のような大猪が突進してきた。
その体毛は長い年月を生きたためなのか白く、触り心地はとても堅そうでラージットとはまた違った感触を楽しめそうだが、今はそんなことやっている場合ではない。
「ゔぁ…!」
「…ゔぅ!」
尖った牙を一本ずつアンとウンが抑え込むが、大猪の勢いを完全に抑えることはできず後ろに押されてしまう。
「はあ、はあ、『拘束の呪い』‼」
少々の体力を犠牲にして呪いを発動する。
ナイフの先から飛び出した縄は大猪を拘束した。
「ブゴ!?」
大猪は驚いたような声を上げる。しかし絡みついた縄は今にも千切れてしまいそうだ。
「ゔぁ‼」
「ゔぉ‼」
縄がまだ大猪を縛っているうちに双子は一撃ずつ大猪の胴体に攻撃を与える。
「ブゴォ‼」
大猪が縄を引きちぎるのと同時に双子は下がる。
そしてまた大猪が突っ込んでくるので同じ行動を繰り返す。
《チャレンジ難易度:★★★★☆》 怒れる大猪
先程拘束したウリ坊が引き金になってこの大猪が現れたのは確実だろう。そのウリ坊も既に自力で縄から脱出し何処かへ行ってしまったようだ。
…できることなら一撫でさせて欲しかった。
私たちが大猪と対峙して10分ほど経った。大猪の攻撃は今のところ突進とその場で暴れるという2パターンだけだったが、分厚い毛皮によってこちらからの攻撃が弾かれてしまうためあまり有効打を与えられない。そして近づすぎると暴れ、遠ざかると問答無用で突進してくるために手を出しにくい。
私たちに出来ることといえば一瞬大猪の動きを止めて攻撃をすることぐらいである。
だが、そのために必要な『拘束の呪い』には私の体力を使うので何度でもポイポイ放てるものではない。それに大猪も私の呪いに耐性が付き始めているのか、最初に呪いをかけたときと比べて拘束から逃れる時間が明らかに短くなっている。
要するにジリ貧なのである。
しかしこのまま大猪から背を向けて逃げ出しても追撃されて吹き飛ばされてしまうのは目に見えている。
しかも、問題はそれだけではない。
「ゔぁ…。」
「…ゔぉ。」
双子の声はいつもラージットを相手にしている時と違い、少し弱弱しい。
どうやら、アンとウンの体力も大猪の突進を受け止めるときに減らされてしまっているようだ。
通常、プレイヤーやテイムしたモンスターの体力は回復ポーションなどの体力を回復させるアイテムを使うか、「○○ヒール」などの体力を回復させる魔法を使って回復する。しかし、今現在私の使うことが出来る呪いは敵を拘束させるものと使いどころがいまいち分からないものの二つだけで、体力を回復させる呪いは今のところ使えない。
そのためこのまま大猪の体力を削ろうと思っても大猪よりも先に私の体力か双子の体力がなくなってしまうことは明らかだ。
一体どうすれば…、
デンワ‼ デンワ‼ デンワ‼
煩わしい音ともにウィンドウが開く。
ええい、やかま「ゔぉ‼」
ウンが声を上げるが遅かった。
視界が真っ白になったかと思うと私の身体は後方に吹き飛ばされた。一瞬のスキをついて大猪が私に突っ込んできたのだ。
「カハっ…」
痛みは制限しているのでそれほどでもないが腹の中にあった空気が口から一気に吐き出される。
「うぅ、生きてる。」
が、右足が動かない。痛みがないから分かりにくいがどうやら折れているようだ。
「ゔぁ、ゔぁ‼」
アンに抱えられて大猪の追撃を避ける。
しかしもうこれ以上さっきまでと同じことを繰り返しすことは不可能だ。
私は大猪の突進を許した原因のウィンドウを見る。
電話の主はフッカのようだ。もしかしたら湖の近くまでついたのかもしれない。
…そうだ、
「二人とも、湖まで戻るよ‼
アンは私をこのまま持って行って‼ウンは大猪の攻撃を受け流して‼」
ダメもとである。
私たちは来た道を戻る。
大猪との退却戦が始まった。
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