第10話
「それで一人で
私の注文通り大きなランタンを片手にフッカはニヤニヤ笑いながら私を見た。
ランタンは私の持っていた蝋燭よりも明るく部屋を照らし、ボロボロになった本が数冊置かれた棚や割れたガラスの容器の光がキラキラと反射した。
「いやいや、隠し部屋なんてあったのを教えなかったら怒られちゃうかなって思ったから呼んだの。」
フッカの煽りを受け流して私はランタンの明かりに目を慣れさせていた。
「それにしても偶然とは言えまさかこの屋敷にこんな隠し部屋が有ったとは驚きですよ。
ハユさんお手柄ですね。」
受付のお姉さんーーアリサさんが穴から顔を出してそう言った。その手には頑丈そうなロープが握られている。
「でも、私とフッカさんが上から声をかけたときはめちゃくちゃ声震えてませんでした?
やっぱりそれって…。」
アリサさんもニヤリと私を見た。
ああ…もう、うるさい!!
そんな顔でこっちを見るな!!
そうですよ。こんな得体の知れない部屋に棺が置かれているとか、絶対にホラー系のヤバいのが出るに違いないと思いましたよ。
ホラー映画とかお化け屋敷はフィクションって分かっているから見れるし楽しめる。だけど実際に自分が、しかも一人で体験するなんてごめんだ。
しかし棺のことも怖いけど気になるし、そもそもどうやってこの部屋から抜け出すのか…ということで急遽フッカに連絡して応援に来てもらったのだ。
幸いその時フッカもフレンドのログイン待ちで街の中で暇をしていたらしくすぐに駆けつけると言いロープとランタンを持って館まで辿り着くと、その時私の作業が終わるまで庭でお茶を飲みながら待っていたアリサさんと合流し今に至る。
因みに後から聞いた話によるとバランスを崩して私が手を着いた場所に丁度落とし穴のスイッチ(赤ちゃんの爪くらいの大きさで大変わかりにくい)があり、彼女達が来た時は閉じていた穴も暖炉の床についた私の手の跡からスイッチを見つけたそうだ。
「そ、それじゃあ早速棺を…「待ってお姉ちゃん!!」」
私が棺の蓋を開けようとすると突然フッカがそれを手で制した。さっきまでノリノリだったのに一体何かしら?
「あ、多分棺を開ける前にこの部屋を調べたかったんでしょう。そうですよねフッカさん?」
私が怪訝な顔でフッカを見ていたのが分かったのか(そう言えば今は不要とマスクを外していた。)アリサさんはフッカの行動の理由を教えてくれた。
「そ、アリサさんの言う通り。この館は罠だらけだったんだからこの隠し部屋にも罠があるかもしれないでしょ?だから、ちゃんと部屋全体の安全を確認してから棺を開けないとね。」
そう言うとフッカは持っていたランタンで床を注意深く照らし罠の有無を確認し始めた。
その姿は何となく斥候や盗賊といった感じだが、確かフッカは剣士の
「フッカって剣士じゃなかったっけ?
それなのに『危機察知系』の種にしたの?」
『危機察知系』とはその名の通り敵や罠といった自分に害を及ぼすモノを感知しやすくなる才能のことである。
「ん?ああ、別に簡単な罠を見つける事ぐらいだったら注意して見ていれば誰にでもできるよ。」
フッカいわく、『TWO』の世界における“種”とはプレイヤーの行動を制限するのではなく才能を増幅させるものらしい。簡単に言うと『使役系』の“種”を持っていなくても動物やモンスターをテイムすることができるのだ。
もちろん“種”を持っているプレイヤーに比べてテイムをするための条件や制限が追加されるそうだが
「現に私の知り合いに遠距離攻撃の“種”だけど鷹をテイムできたって人がいるけど、使役系関連の才能は生えなかったらしいよ。
それに色んな偶然が重なってテイムできたって言っていたから運が良くないと出来なさそうだね。」
床を確認し終わったフッカは私に顔を向けてそう言った。
しかし偶然でもテイム出来ただけありがたい気がする。私なんて“種”を持っているのにまだボッチで困っているんだ。
最悪このままの状態が続いたら
「ハユさん急にうずくまってどうしたんですか?
お腹が痛いんですか?大丈夫ですか?」
「あっ、大丈夫だよアリサさん。お姉ちゃんはきっと自分の不甲斐なさに悲しんでるだけだから。
それよりアリサさん罠の確認も終えたことですし棺開けない?」
人の心を読むな。後、勝手に話を進めるな。
「そうですね。安全は確保できているので開けてしまって大丈夫ですよ。」
アリサさ...いつのまにかこの部屋の入り口である穴に退避して顔だけ出している。
まるでこの棺が爆発するみたいじゃないか。
「一応私は非戦闘員ですからね。フッカさんたちのようには身体が出来てません。」
私の心の中を読んだかのようにアリサさんは言うと頭を穴の中に引っ込めた。
「ホラホラ、アリサさんもちゃんと退避したし後は棺を開けるだけだよ!
早く中を見ちゃを!」
「…それもそうよね。
さてと、何が入っているかしら?」
既に棺の横で私を待っているフッカの方へ向かう。
改めて見るとこの棺はいつも死に戻ってくるときにお世話になる木製の棺ではなく、黒い岩で出来ておりなんとも重厚感がありそうである。
「それじゃあいくよ。セーノッ!!」
フッカの合図で私達は棺の蓋を力一杯押した。
かなり重いけど2人でならなんとか動かせそうである。
ゴゴゴという岩と岩が擦れ合う大きな音と共に徐々に開かれていく棺。
この時私は棺の中に大概入っているであろうモノのことを完全に失念していた。
棺の蓋が半分程開いた頃、棺の中から小さな手が二組飛び出して私の腕をギュッと掴んできた。
余り強い力ではなかったが予想外のことに私は悲鳴を上げ手を振り払おうとした。
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