第二節 双黒

「それが今の、Asrionアズリオンか。新しいな」

「ああ。そういう父さんのAsrionアズリオンは、頭部の武装が見えないな」


 互いのAsrionアズリオンを見て評ずる、二人。

 外見上、頭部を除いて差異は無かった。


「まさか次世代のAsrionアズリオンを、この目で見られるとはな。素晴らしいものだ」

「父さんのAsrionアズリオンも、生き生きとしているように見えるぞ」

「久しぶりだからな。また戦えるとは思っていなかったのだろう」

「なら、全力で戦うとしよう。期待に応える為に」

「ああ、来い。全力で迎え撃つ」


 2台のAsrionアズリオンが、大剣と大盾を構える。

 次の瞬間――ゲルハルトのAsrionアズリオンが、疾駆していた。


「行くぞ!」


 走りながらつかと小盾を取り出し、漆黒の結晶を伸ばして大剣と大盾に変じさせる。

 一方、アルフレイドのAsrionアズリオンは、構えこそすれど微動だにしなかった。


(父さん、カウンター戦術を取る気か? だが、その前に――)


 アルフレイドが攻撃を受け止め、生じる隙を突いて手痛い反撃を食らわせるのだろうと、ゲルハルトは予想した。ならば一気呵成に仕留めるまでだ、と。

 あと数歩で、必殺の間合い――そこまでゲルハルトのAsrionアズリオンが迫った、その時。


 アルフレイドは、ふ、と笑った。


「今だ――」

「ゲルハルト、下がって!」

「!?」


 パトリツィアの指示で、ゲルハルトは咄嗟にAsrionアズリオンに後方に跳躍させる。


 次の瞬間、胸部装甲にわずかな裂傷が生じた。


「ぐっ!?」

「浅いか」


 ゲルハルトは体制を整えながら、アルフレイドのAsrionアズリオンを見る。大剣を振り抜いた態勢で、残心を取っていた。


「大丈夫、ゲルハルト!?」

「ああ……だが、ダメージを負ったな」

「ボクが直すよ」


 パトリツィアが自身の能力を発揮し、Asrionアズリオンの装甲を一瞬で修復する。


(今のは明らかに、父さんの攻撃だった……。だが、何をしたのかが見えない。それに、刀身の長さは同じくらいなはずなのに、間合いの外からわずかとはいえ、ダメージを与えてきた……何故だ?)

「ゲルハルト。今のが私の技の一つ、“閃刃せんじん”だ」

「閃刃……。どういう技だ?」

「剣技と光線ビームの併用、と言えば分かるか?」


 それだけで、ゲルハルトは察した。

 機体を後退させながら、先ほどの攻撃を分析する。


(なるほど、光線ビームか……。確かにそれならば、一瞬繰り出すだけで大剣と同様に敵を両断出来る。しかし、威力はともかく、射程は調節しないと無関係なものまで斬ってしまうはずだ……。それに、おれAsrionアズリオンに負わせた傷が浅いのも、そうでなければ説明がつかない。見た技はまだこの一つだけだが、本気の父さんは、ここまで強かったのか……!)

「そこまでか? ならば、私からも仕掛けよう」


 攻守交替と言わんばかりに、アルフレイドのAsrionアズリオンが疾走する。


「ゲルハルト、ボーッとしないで! 迎撃!」


 パトリツィアからの指示で、ゲルハルトは自身のAsrionアズリオンに大剣を構えさせる。


「ほう、私達を狙い撃つつもりか?」


 すぐさま意図を察したアルフレイドだが、防御の動きは見えない。

 速度もそのままに、まっすぐ突っ込んでくる。


(あの攻撃……閃刃には、素早い振り抜きと、目に見えない程細い光線ビームの同時展開が肝心だ。なら……!)


 ゲルハルトはその場で、ゆっくりと大剣を振った。


「何してんの、ゲルハルト!?」

「静かに!」


 疑問に思うパトリツィアを制しながら、ゲルハルトは先ほどのアルフレイドの技の再現を試みる。


「当たれ……!」


 大剣が輝くと同時に、全力で振るう。

 果たして――


「そこまで再現するか。だが、惜しかったな。動きが緩慢だから意図が読めてしまったぞ」




 まったくダメージの無いアルフレイドのAsrionアズリオンが、ゲルハルトのAsrionアズリオンを盾で弾き飛ばしたのは、この言葉の直後だった。

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