3 聖女の親友達、黒幕に辿り着く 上
「何かなレリアさん。改まって話って」
ルカに言われてシエルはレリアの元へとやってきた。
そしてレリアの話したい事が自分以外に聞かれたくない事で有る事を察した事もあり、自然な流れで皆から距離を取る。
「ああ。実はの……この空間を作り出している人物を特定できたかもしれないのじゃ」
「え、ほんと!? 流石は偉人というか……びっくりする位の手際の良さで進展するね! そりゃあっちゃんもテンション上げるような相手な訳だ!」
笑いながらそういうシエルだが、ここで違和感に辿り着く。
「でもレリアさん……なんでそれをウチだけに? 多分ルカさんにも話してないよね」
それはどう考えてもおかしいのだ。
「あまり言いたくないけど、ウチは此処にいる面子の中では情報を知るべき優先順位は低い方だと思うよ」
一応自分も当事者だ。
起きている一件の中核にいる者達の友人で、此処にこうして立っているように両足どっぷり浸かっている。
だけどそれでも、まず真っ先に情報を告げるのが……他の皆より先にあえて自分にだけそれを話そうとする理由が見えてこない。
……あるとすれば。
「…………って事は答えを知っている人間は最低限にしておきたいって事かな」
そういう事なら自分だけに話が回ってくる事に納得がいく。
なにせ約一名以外全員が見えているから忘れそうになるが、レリア・オルフィルは幽霊だ。
その状態でも現場を調べる事位は事実出来ている訳だけれど、それ以上の事となれば肉体が必要だ。
そして……この場においてその役割を担うのがまさしく自分なのだから。
レリアが他の者に話を通さずに何かをやるつもりなら、必然的に話を通すのは自分だけという事になる。
そう推測したが……レリアは首を振る。
「いや、最低限で留めるべきかの相談をしたかったのじゃ。そういう意味じゃこの場においてお主が最も情報を伝える優先順位が高いと言える」
「ウチが……?」
話が本格的に読めなくなってきたところで、一拍空けてからレリアは言う。
「細かく放せば複雑になるからの。簡潔に説明するのじゃ」
「お願い」
「まずワシが行動する為の器となっている指輪には元々超高度な術式が刻まれていた事は知っておるな」
「知ってるよ。ウチも一緒に戦ったからね……それがどうしたの?」
聞いた話によると、あの時の影の術式を破壊してその空いたスペースにレリアが居るとの事だったが、今更あの術式が何か手掛かりになるのだろうか。
そしてその問いにレリアは答える。
「そしてこの空間を作った人間は、ワシの見立てでは同一人物じゃ。同じ魔力の反応をしておる。まあその辺は大体分かっておるじゃろ」
「まあね。この空間もその指輪もとんでもない技術が使われているらしいから。そんあの作れる奴が複数人いるなんて考えたくも無いし」
反応云々も含めてまともに情報を読み取れないほど、この空間も指輪も高度な技術が使われていたたしいが、それ故に作ったのが同一人物である事位は分かりきっている。
だけどそれを証明できたとしてだ。
「それでそれがどうしたの?」
「……」
レリアは少々気まずそうに一瞬視線を反らす。
反らすがそれでも、覚悟を決めるように小さく息を吐いてから答える。
「……この指輪の反応が、アンナのそれと同じなのじゃ」
突然親友の名前が出てきて、目を見開いた。
「……は?」
急速に何一つ埋まって無かった空間に、パズルのピースが埋まっていくような感覚が有った。
そんなシエルにレリアは続ける。
「当然、アンナが事の首謀者だとは思わん。だとすれば同じ反応を持つ別の誰かが居るという事になる訳じゃが……この場合それは血縁者じゃ。少なくともかつてのワシの研究結果ではそういう事になるのじゃ」
パズルのピースが埋まっていく。
あらゆる事の諸悪の根源と呼べる相手の存在が、浮かび上がってくる。
「つまり犯人はアンナの親兄弟や親族という事になる。そんな事を堂々と発表する訳にはいかんじゃろ。一番話せそうだったのがお主じゃったという訳じゃ」
話を最後まで聞かなくても、パズルはある程度埋めれば何が描かれているかを見て取れる。
この空間や指輪を作成したのは、アンナ・ベルナールの父親だ。
「……ッ」
アンナの親友として、どうしようもないクズだと認識していた男が想像を超える程のろくでなしだった。
……つまりはそういう話である。
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