2 黒装束の男、取り繕う
一体レリアが何を考えているのかは分からない。
精々分かる事は、その何かがシエル以外の人間の耳に入る事が彼女にとって不都合という事位だ。
……もしくはアンナにとって。
「分かりました。今のは聞かなかった事にしておきます」
「助かる…………盗聴用の魔術の類いは使わんのか? どうやら内心聞かなかった事にはできていないようじゃが」
「だとしてもそんな事はしませんよ」
……当然、レリアの言う通り本当の意味で聞かなかった事になどできない。
なにせこの短期間ですっかり腐れ縁のようになってしまった人物の名が、明らかに良くない流れで出てきたのだ。
それをそのまま何も思わず聞き流せる訳が無い。
だが……寧ろ、だからこそ。
「出しゃばった真似をすると、きっと碌な事になりませんから」
だからこそ、形だけでも聞かなかった事にせざるを得ない。
それを聞いたうえで良かれと思ってやった行動が、どんな形で事態を悪化させるか分かったものでは無いから。
少なくとも、自分より優秀な人間が自分に忘れろというのだから、今は個人的な感情など圧し潰してしまわなければならないだろう。
「……まったく、ナイーブな男じゃな。ワシにサインを求めていたときのテンションでずっと生きていればいいのにの」
「今とそんなに違いますか?」
「いや全然違うじゃろう」
「何も変わってませんよ俺は」
「えぇ……」
「……?」
「……まあいい」
レリアはコホンと咳払いをしてから言う。
「とりあえず、忘れろと言ったのは一旦じゃ。あの娘との話次第ではお主にも伝える事になると思う。そう、伝えられるのじゃ……ワシが忘れろと言ったのは何も、お主が役不足だとか、そういう意味で言った訳じゃない。もっと違う理由じゃよ」
「お気遣い、感謝します」
「…………思ったより深刻じゃな。何を見て聞いても悪い方に捉える」
そう言ってため息を吐くレリアに言う。
「あの、レリアさん」
「なんじゃ?」
「さっきの役不足云々、あれ誤用ですよ」
「……それ堂々と指摘できる辺り、思ったより大丈夫そうじゃの」
「ええ」
……取繕えたならそれでいい。
そしてルカは踵を返しシエルの方に向かう。
「シエルさん、何やらレリアさんが二人で話したいと」
「え、今ウチと? んん? 昨日かなり一杯話はしたんだけどね……まあ分かったよ。ちょっと行ってくる」
そう言うシエルと入れ替わるように、ルカはミカ達の元へと戻って来る。
「ルカ君、レリアさんと何話してたの?」
「進展が有ったかどうか聞いていただけです。そして詳しくは聞けてませんが何か有ったのでしょう。今シエルさんが呼ばれたのも基本あの人が何かをする為にはシエルさんに乗り移らないといけないみたいですから、その打ち合わせみたいなものじゃないですかね」
「……そっか」
ミカはどこか心配そうに言う。
「……大丈夫? なんかずっと調子悪そうだけど」
「ははは、実は俺も軽く二日酔いなのかもしれません」
「……違うよね?」
適当に取り繕うルカにミカの言葉が突き刺さる。
「そういうのじゃ、無いよね……何かあるなら言ってよ。話聞くから」
「……大丈夫ですよ」
少し気合を入れて取り繕う。
「大丈夫」
……この人に自分なんかの弱みを見せる訳にはいかない。
自分はこの人を守り支える立場なのだから。
「……………………ルカ君のバカ」
……それこそ誤用ではあるが、自分には役不足だと言えるのかもしれないけれど。
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