8 聖女さんと馬鹿、バチバチ 下

「馬鹿みたいにって……」


 言われながら一瞬で振り返る。

 ……確かに私はこの馬鹿の前で猫を被ってた。

 今じゃ考えられない程の、最近誰にも全くやってないレベルで丁寧な接し方をしてた。

 だから間違いなく猫を被っていたけども!


「いや一応国王のアンタに好き放題言う方がおかしいでしょ! あれはやって当然の事じゃん!」


「その当然は親父の周りに居た連中と変わらねえんだよな。思ってもねえ事適当に言って、裏で何やってるか分かったもんじゃねえ」


 そういえばミーシャが元々いた大臣達が裏で汚職しまくってたみたいな事言ってたけども!


「はぁ!? それソイツらがおかしいだけで、私個人に関係者ないよね! それで勝手にヘイト貯めるの理不尽にも程があるでしょ!」


「あ? そもそも俺の事内心馬鹿にしてる奴が猫被ってんのが腹立つって話で、ヘイト溜める事に理不尽もクソもねえだろうが! 分かってんだからなお前が俺の事滅茶苦茶見下してたの!」


「身から出た錆って言葉知らない!? 大前提としてアンタが尊敬の一つもされない位馬鹿みたいな事やりまくってんのが根本的な原因だよね!」


「お前の言う馬鹿みてえな行動ってのはいくつもピンと来るけどよぉ! その半分くらいは、馬鹿親父の周りに居たクズ共がやらかしまくってた遅効性の毒みてえなのを喰らってるだけなんだよなぁ!」


「はい認めた! 半分は馬鹿みたいな行動って認めた! じゃあそれ見せられてアンタを内心馬鹿にするのは正当性あるでしょ!」


「じゃあそれを堂々と言えって言ってんだよ! 配慮しながらでも毒の一つや二つ位吐き出せんだろうが! それを一切表出さねえ陰湿な奴なんて排除したくなるだろうがよぉ!」


「だから自分の立場考えろって! 別にコミュニケーション能力高い訳じゃないけど私が普通じゃんこんなの! あ、っていうかもしかしてアンタ、私追放した理由、一割か二割位私が邪魔だったからって事じゃない!?」


「見積甘ぇぞ三割位はあるわボケェ!」


「殆ど変わんないよね!? というかそういう事する人間性がもう尊敬できないの分からない!?」


「その原因の大半作ってんのは誰だ?」


「三割なら私以外の誰かじゃないかな!?」


 いやその場合七割ミーシャって事になるから、なんか変に巻き込む感じになってる気がして申し訳ないけども!


「……なんすかね。アンナさんの方が普通に正論寄りなのは分かるっすけど、なんというか醜い争いみたいに見えてくるっすね……」


「そうですね……なんかこう、ノリが追放された聖女と追放した王様って感じの口論じゃないですよね」


「逆にこういうノリで少し安心しましたわね……なんか喧嘩って感じで収まってて」


「ええ、確かに……殺し合いみたいな事にならなくて一安心ですよ俺は」


 なんか周りで皆が皆が各々呟いてるけど、これ私まで変な扱いされてない!?


 誰の所為だ?

 この馬鹿の所為だ!


「というか改めてだけどどんな理由であれ聖女追放するとか──」


 と、そこまで私が言いかけた時だった。


「ま、その件に関しては俺がわりぃわ。それは認めてやるよ」


「……は?」


 突然そんなまともな事を言い出して思わず言葉が詰まった。


「あれから色々と考えてみた。考えてみたんだけどよ、確かに今回の場合俺の方がほんのちょっとだけ。ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんのちょっとだけ悪いと思うんだわ。流石にやりすぎだったのかもしれねえ」


「いやほぼ過失百パーセントアンタが悪いでしょ」


「いやほぉぉぉぉぉぉぉんのちょっとだね。この位。この位が俺の過失よ。それは譲らねえ」


 そう言って親指と人差し指をほんの少しだけ離して、その小ささを表現する馬鹿。

 正直それを見てふざけんな馬鹿とは思った訳だけどさ、だけどふと思う。


 ……この馬鹿が過失があると思っているのか?

 滅茶苦茶な理由で追放した相手に対して。


「だから此処に俺ぁ足を運んだんだわ。此処ならお前の連れとロイ達以外居ねえ訳だからよ」


「は?」


 全く馬鹿の考えを理解できていない私に対して両手を開いて言う。


「10秒やる。その間に俺をサンドバッグにでもすりゃあいい。それでお互いチャラって事にしようぜ」

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