12 受付聖女達、中の人が違う

 まず先に動き出したのはシズクだった。

 水属性の魔術を使って私達を攻撃……するのではなく、力強く踏み込んで接近して殴りかかってくる。


「うわっ!」


 意表を突かれて反応が遅れたけど、なんとか攻撃を躱す。

 あれ、シズクってこういう戦い方をする感じだったっけ?

 そして躱したけど……これカウンター打ち込んでいいのかな?

 だとしても力加減とかどうしよ。


 そんな風に色々と困惑していたところでステラが言う。


「アンナは幽霊の方頼む! シズクが近接で来るなら俺が出張る」


「わ、分かった!」


 それを聞いて私は大きくステップを踏んでシズクから距離を取りつつ、幽霊を薙ぎ払う。

 そして私と入れ替わるようにシズクの前へと躍り出たステラは、シズクに拳抵を打ち込んだ。


「悪いシズク! 流石に寝てるだけのシルヴィ相手の時みたいにはいかねえ!」


 弾き飛ばされたシズクに向けてステラはそう叫ぶ。


「え、何、寝てるシルヴィと戦いでもした?」


「この前ん時敵の魔術でシルヴィ眠らされて色々あった」


「うわぁ、お疲れ様」


 私とルカが大変な事になっている裏で、全然違うベクトルで大変だったんだなぁと思う。


「で、シルヴィの時はどうしたの?」


「起きろって叫んで無理矢理起こした」


「あーなるほど。じゃあ今のシズク相手にその手段は使えないね」


 寝てるとかそういうアレじゃないだろうし。

 そして幽霊に取り憑かれているシズクは、まだ意識を失っておらずゆっくりと立ち上がる。

 立ち上がるけど……たった一発で膝にきている。


「どうも中の奴は大した事ねえっぽいな」


「……あ、そっか。操られているから水属性の魔術とか使わず突っ込んできたんだ」


「今日頭回ってねえなアンナ」


「今日っていうかさっきからね」


「まあとにかくお前の言う通りだ。使う魔術も戦術も中の人の物だ。そしてその練度はシズクより低い。シズクの基本的な出力が高いから強化魔術の出力も高いけど、それでもそこまでのヤバさはねえ……多分シズクが普通に強化魔術使ってたら、この程度の一撃で膝に来るって事はねえだろ……おかげでこっちも殴る回数少なくて済む」


 そう言って再びステラは構えを取る。


「ああ、そうだアンナ。多分状況が状況だから怒りはしねえだろうけど、後で一緒にシズクに謝ってくれね? 一応殴ってるわけだからさ」


「ああ、成程。それは勿論」


 寧ろ私がうまくやれないから押し付ける形になっている感じもするからね。

 ……だけど謝るのは後でというより今になりそう。


「あ、ステラストップ!」


「言われなくても分かってる」


 視界の先でシズクの様子が変わった。

 見て分かる位はっきりと目付きが。


「……あ、え、体、体痛ぁ、なんすかこれ!」


 そして。


「あ、出てきた!」


 シズクの体からスルスルと幽霊が抜けてくる。

 痛みに耐えきれなかったのかも!


「シズクそこ動かないで!」


「え? え?」


 混乱しているシズクに向かって急接近。

 出てきたばかりの幽霊に結界をフルスイング!

 さっきまでシズクを操っていた奴をぶっとばす!


「え、アンナさんこれ一体どういうじょうきょ……って、なんか居るんすけど! ひえぇ……!」


「お、シズクも見えるようになったか」


「取り憑かれてたから霊感上がったか?」


「取り憑かれてたって事は……もしかしてボク今まで操られてたんすか!?」


「ああ。そんで俺がぶん殴って意識落とそうと思ったら、幽霊の方が勝手に抜けてった感じだ。悪いな、殴るみたいな解決策しか出せなくて」


「私からもごめん!」


 他の幽霊を薙ぎ倒しながら、私達はシズクに謝罪する。


「いや、助けてもらったのはボクの方っす! ほんとありがとうっすよ!」


 言いながらシズクが私達に強化魔術を付与してくれる。

 ……相変わらず凄い出力の上昇量だね。これを幽霊達に付与されるような状況にならなくて良かった。


「シズク、とりあえず結界なら干渉できるからそれで身を守ってくれ!」


「は、はいっす! ってちょっと待って欲しいっすよ! シルヴィさんは!?」


「多分シズクと同じ状況!」


「あ、取り憑かれてるんすね!」


「多分ね!」


 でも先にシズクと戦って一つ安心した事がある。

 出力はともかく技能は中の人の力が100パーセントだ。

 シルヴィの出力持った敵が出てくるってだけで脅威ではあるんだけど、シズクの強化魔術もあるしなんとかなるでしょ。

 と、幽霊を薙ぎ倒し続けていると。


「お、段々とこの体も馴染んできたの! うん、良い感じじゃ!」


 そんな声が聞こえてきた。

 ……シルヴィの声で。


「ん? そこに誰かおるのかの」


 その声に三人とも視線を向ける。

 そこには居た……幽霊を結界の棒で凪払うシルヴィが。


 絶対中の人違うけど!

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