10 聖女さん達VS生きていない人達

 可能な限り精神を集中させて術式を構築する。

 風属性の魔術。

 発生させるのはシンプルな突風。


 まずはとにかくぶっ飛ばして距離を取る!


 ……だけど。


「……あ」


 打った直後血の気が引いた。

 私が起こした風はただ屋敷の廊下を勢いよく吹き抜けて行くだけ。

 全く効いていない。すり抜けた。

 扉を通り抜けたりなんて事はされなかったけど、それでもやっぱり実体が無い。


 ……という事はステラは!?


 嫌な予感がして咄嗟に後方に視線を向ける。


「あ、クソ!」


 ステラの放ったえげつないキレの右ストレートは幽霊を貫通して空を切る。

 実体が無いから、どれだけキレのある攻撃だって当たらない。


 そして理不尽なカウンターを放つように幽霊の手が伸ばされ……その手は確かにステラの頭部を鷲掴みにした。


「そっちは触れんのかよ……ッ!」


 ステラがそう口にした次の瞬間、ステラは頭部を掴まれたまま勢いよく壁に叩きつけられた。


「が……ッ!?」


 思いっきり頭を叩きつけられたステラからそんな声が漏れだす。

 もがくようにステラが腕を振るうが、ステラからの攻撃は全てがすり抜ける。

 そして……私達は囲まれていた訳だから次が来る。


 私にも、ステラにも……残りの幽霊が飛び掛かってくる。


「……ッ!?」


 それに対し、もう無意識にやけくそに無我夢中で私は動いた。

 双方から迫ってくる幽霊達の動きを封じる壁を作るように結界を展開する。


 次の瞬間……幽霊達がその結界に勢いよく衝突した。


「……え?」


 自分で張っておいてなんだけど、そんな間の抜けた声が出てくる。


 動きを止められた。


 これがさっき扉をすり抜けてこなかったみたいに無機物をすり抜ける事が出来ないのか、聖属性の結界との相性が悪いのかは分からない。


 だけどどちらにしても。

 そしてできれば後者なら。


 ……私達はこの幽霊達と戦える。

 寧ろ相性が良い。


 私がそう考えた瞬間には、ステラが一足先に動いていた。

 結界を展開。

 メリケンサックのような形状で出力した結界を握りしめたステラが、再び幽霊に右ストレートを叩き込む。

 今度は……半透明の体に拳がめり込んだ。

 そしてすごい勢いで弾き飛ばされた幽霊は壁に穴を空けてどこかへ消えていく。


「……ナイスだアンナ。おかげで助かった」


「だ、大丈夫ステラ」


「まあ軽傷だ軽傷」


 言いながら頭から血が流れてるけど、ステラはどこか笑みを浮かべてそう言う。

 大丈夫? アドレナリンどばどば出ているだけじゃない?


 ……だけど冷静に構えを取って、今度は震えず構えを取りながら言う。


「なんか普通に殴れるって分かったら怖さ半減したわ。やるぞ、反撃開始だ」


 か、かっこいい……本人はかわいい方向性目指してるから、あんまり言われたくないだろうし言わないけど、なんかカッコいい……。


 じゃ……私も続くか。


 この前も今回もなんか泣いてばっかだし、そういうのじゃないじゃん私って本来。

 ……多分だけど……いや、きっとそうだ。


 だからちょっとカッコよくこのトラブルを切り抜けよう。

 そして私も結界を展開。

 シルヴィのように結界を棒状に展開して構える。


「じゃあそっち半分よろしく」


「ああ。始めっぞゴーストバスティング!」


「うん!」


 そう言った瞬間、私は壁にしていた結界を解いた。

 さあ、速攻で殲滅しよう。


 反撃開始だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る