三章 聖女さん、冒険者やります
1 聖女さん、仕事当日の朝
あれから一日しっかり休んで仕事の朝。
「……うん、やっぱ今日も異常なしだね」
朝ご飯を食べた後、日課にする事にした結界の状態調査を軽くやるけど……うん、正常に動いている。
ルカやミカの国で起きたような事は現状起こってはいない。
……結局、昨日もある程度の時間を使って私達が戦った相手が使っていた魔術の解析もやってみたけど殆ど進展は無かったし……とにかく本当に分からない事がそのまま積もっていく感じがしてる。
……一回気分転換とかをした方がいいのかもしれない。分からないことが多すぎてイライラしてきたしね。
そういう意味でも、今日が皆で仕事をする日ってのは丁度いいや。
「それじゃあ出発と行こうかな」
冒険者として動く為の最低限の荷物を持って、私は自宅に設置した転移魔術の魔方陣に足を踏み入れた。
そして次の瞬間、景色が変わる。
「おはようシズク」
「ああ、おはようっす。ちょっと待ってください、もう終るんで」
転移先であるシズクの家に到着すると、同じく準備を済ませたシズクが何やら机に向かっていた。
「なにしてんの?」
「勉強っす」
「なんの? ……って資格の勉強してるって言ってたね。えーっと、確か簿記だっけ?」
「簿記っすね。いやー中々難しいけど段々理解してきたっすよ。これは一発合格全然あるっす」
「頑張れ。私そっちの分野は全然分かんないけど応援してるよ」
「はいっす!」
そう答えてから数秒後、シズクは教本を閉じる。
「よし、キリの良い所まで終了っす!」
「お疲れ様」
と、そこで気になったので少し聞いてみる。
「ちなみにシズクは、他に何か資格とか持ってるの?」
なんか私達4人の中でぶっちぎりに真っ当な生き方してるからね。簿記の資格取る前に普通に何か取ってそうだよ。
「いや、まあ持ってない事も無いですけど、大したの持ってないっすよ。簿記は仕事のスキルアップの為に取ろうと思ったんすけど、そういうのとは違うっすから」
「ちなみにどんなの?」
「えーっと、まずサウナ・スパ健康アドバイザーっすかねぇ」
「うわ、なんか良くわからないの来た」
「ああ、後ライフセーバーの資格も持ってるっす」
「なんでそんな大事そうな方がおまけ扱いみたいに……」
サウナ・スパ健康アドバイザーは良く分からないけど、絶対ライフセーバーの前に来る奴ではないんじゃないかな……。
「まあこの話はこれらが生かせるようなタイミングにまたってっ事にしとくっす」
……あるかなぁ。
まあそれはそれとして。
「で、シズクは準備できてる?」
「できてるっすよ。もう準備もやる気も完璧っす。これを見て欲しいっす」
そう言ってシズクが取り出したのは財布だ。
そしてひっくり返すけど……出てきたのは小銭だけ。
「そしてここもこうっす!」
小銭を拾ったシズクは今度は冷蔵庫をオープン。
うわーお。何にも入ってないや。
「こんな感じなんで準備もやる気も完璧っすよ!」
そんな事を自信満々に言うシズクの肩にポンと手を置く。
「あの、一応聞くけど……朝ご飯食べた?」
「パンの耳が少し残ってたんで、食べたっす」
そんなシズクのお腹からは「足りる訳ねえだろォッ!」って訴えているような音が鳴る。
「……シズク」
「なんすか?」
「まだ時間に余裕あるし……一回家来て。朝ご飯……朝ご飯作ってあげるから」
「いや悪いっすよ」
「良いからこんな形で半分自宅みたいに使わせてもらってるし! 寧ろ作らせて!」
いやもうガチ心配だよ。
私達の中で一人だけ良く分からないトラブル抱えちゃってるよ!
「……えーっと、じゃあその……お願いできるっすかね」
「いやもう全然いいから! 後、こうなるもうちょっと前に声掛けてね!」
ほんと心配だよ!
……とは思ったけど、多分その辺は心配ないのかもしれない。
シズク本人もそう思ってる。
「まあ金銭の話は今日以降はしばらく大丈夫っすよ。皆さんとの仕事で失敗なんてほぼしないと思うっすから」
「そうだね。とりあえずガッツリ稼ごうよ」
言いながら、私はシズクを連れて自宅にとんぼ返り。
パパっとご飯を食べさせてあげよう。
……しっかしほぼ失敗しない、ね。
多分一昨日の一件が無かったら絶対ってシズクは言っただろうし、私もそう思ったんだろうなって思う。
流石に絶対なんて言葉を使える程傲慢じゃいられないかな、うん。
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