ex 聖女くん、拳を叩き込む

(……よし)


 これだけの動きができる相手なら、直接攻撃を加えても一連の攻撃では倒しきれない可能性がある。

 だからまずは得物を壊す。

 本体を狙うのはそれからでいい。


 そして得物は破壊した。

 だから此処からは本体を狙う。


(そこだァッ!)


 渾身のリバーブローを放つ。

 だがその拳は空を切った。


 動きに既視感がある。

 あの山で戦った黒装束の少女と同じ類の空間転移。


 そして次の瞬間には男はステラからかなり距離を離しており、その位置からこちらに折れた刀を投擲してくる。


(躱すか……いや)


 躱せばその刀はシルヴィの方へと向かうだろう。

 もっとも向かった所でシルヴィは簡単に処理するだろうが、それでも問題なく対処できるならその火の粉は振り払っておくに越したことはない。


 だからステラはその刀の柄を急速に前進しながらキャッチして、瞬時に壁に向かって投げつけた。

 次の瞬間、刀が轟音と共に小爆発を起こし地響きが鳴り響く。


(……うおッ! マジか! あっぶねえ!)


 叩き落としていたりすれば直撃していたし、あの場で前進もせずにただ躱していたりした場合もタイミング的に背中から喰らっていただろう。

 半分程運よく切り抜けた形ではあったが、 最速かつ直感的な動きが最善手となった。


(よし、じゃあ次から気を付けよう……次があればな!)


 既に向うが距離を離してからほぼノータイムで動き出し、その距離は大きく詰め始ている。

 次は当てて次は潰す。

 もう一度飛ばれる前に。

 だから少しでも確実性を上げる為に、炎属性の魔術を発動する。


 陽炎。


 次の瞬間、視覚的に男やシルヴィにはステラが二人に見えている筈だ。

 当然、本当に二人になった訳ではない。

 片方には質量が無く、あくまで魔術で作り出した蜃気楼。

 だが並の相手ならば、もはやどちらが本体か見分けが付かない。


 だが相手は並ではない。

 どちらが本物かなどすぐに判断できるだろう。


 だとしても視覚に映る分身体という視覚情報は、強制的に無意識化で思考回路に微かなノイズとして現れる。

 当然その影響は本当に微かなものでしかない。

 それでもその極僅かな影響が。


「次は当てんぞ」


 いつの間にかどこかから取り出した別の刀の剣撃を掻い潜り。

 その拳を強者の腹部に届かせるに至る。

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