ex 聖女くん、VS特殊部隊隊長

(……動きが変わったな)


 敵も残り五人となった所で、後方から魔術による支援攻撃を行うというスタンスを崩してきた。

 今までこの場の指揮を取っていた男が、指輪を光らせて前へ。

 後の四人は後ろへと回る。


 それを見て、無暗に前へと出るのを止めた。


(……何かあるな)


 此処までの戦況を踏まえて、冷静に陣形を組んできた。

 ヤケになって突っ込んでくるのではなく、明確な意思を持ってだ。

 即ち、向こうはまだ最低限勝ちの目がある戦い方を有している事になる。


(……少なくともいきなり突っ込むのは無しだな)


 そして同じことをシルヴィも考えていたのかもしれない。


 前へ出た男に向けて、電撃を矢のように打ち込む。

 超高速の雷撃の矢……それを。


「……ッ!」


 男はギリギリのタイミングで躱した。


(……なるほど、コイツだけ明らかにレベルが違うな)


 今の攻撃は、多分今までなぎ倒してきた連中では躱せなかった。

 それを躱せる時点で、頭一つ抜けている。

 ……だが。


(……でもなんでそんな奴が大した事もねえ遠距離攻撃に甘んじてた)


 最初からその動きが前衛でできれば、ここまで早く向うの部隊は半壊しなかった。

 基本下の人間を前に出して自分は安全地帯に居るタイプかとも考えるが、それなら今自分が一人で前衛として立っているの意味が分からない。


 だとすれば。


(此処まで何かの準備してた感じか)


 結界術一つとってもそうだ。

 瞬時に放てるものと、時間を掛けて作り出す物では打って変る程硬度が違う。

 つまりこれまで簡易的な魔術で迎撃しながら、並行して術式を組み上げてきた。


 もしくはその指輪が……この特殊な魔術が張り巡らされた空間が、何かを積み上げてきた。


 なんにしても……気は抜けない。

 自分達は無敵じゃない。

 先日の黒装束との戦いで、それは思い知らされているから。


 最大限の警戒は、いかなる相手にも最初から最初まで崩さない。


 そして男は電撃を躱した流れでそのまま一気に距離を詰めてくる。

 少なくともこの場で自分達を除けば最も早いスピードで。


 そして接近してきた男の拳を躱す。

 ……凄まじいキレ。

 だけど躱せる。

 自分が対応できないレベルにまでは到達していない。


 故に躱して、流れるようにカウンターを打ち込める。


 ……だが。

 放った蹴りは空を切る。


(……マジか)


 躱された。

 ギリギリだが、それでも確かに躱された。


(どんな反射神経してんだよコイツ)


 反応があまりにも早かった。

 まるでこちらの初動の一瞬で攻撃の軌道を瞬時に割り出したかのように。

 だけど攻撃モーションを見て先読みするにしても、あまりにも早すぎる。

 そしてそこから何度も放ってきた攻撃の技量と、それに合わせたカウンターに対する防御時の反応速度があまりにも剥離している。

 そもそも……こちらの攻撃を見ていない。

 となれば。


(ああ……なるほど、そういう魔術か)


 おそらくこれまで掛かった時間の中で、そういう魔術を発動させた。


(こっちの一挙一動で動きを割り出してやがる。それも視界に捉える必要は無いと)


 おそらくどこかに動きを捉える目の役割をしている何かがある。

 そして捉え割り出した動きに合わせて本人の意思とは別の所でフルオートで回避行動に入る。


 そしてこちらの攻撃を全て躱して見せるだけの精度の魔術だ。

 拳での攻撃にフェイントを混ぜるがそれには一切反応しない。


 ……厄介。

 本当に厄介だとは思う。


 だけど……それでも向うがこちらに届いていない事は、伝わってきた。


「くそ……ッ」


 男の表情に焦りが見える。

 現状、互いに有効打が無い五分にも見える状況であるにも関わらずだ。


(……急いでるな)


 おそらく急がなければならない理由がある。

 そしてこの状況で想定できるのは……今の術を維持できる制限時間といった所か。

 そしてきっと理想を言えば、最初の数発の攻撃でこちらを落としたかった筈だ。

 攻撃を躱しながら冷静に場を分析して、気付く。


 後方支援の立場で居る筈の、残りの四人の内、三人がほぼ無防備で立っているという事。

 内一人も、その三人を守るように立っているという事。


 つまり、男の焦りは制限時間の類いではない。

 後ろに立つ三人の指輪持ちの相手が、目の前で必死に拳を振るっている男の魔術の要なのだ。

 術式の理論や具体的な効力の解明まではいかなくても、そう推測する事はできた。


 そしてこちらを最初の数発で落とせなかった時点で……そのまま次に狙うはずだった駒がフリーになる。


 自分と男の攻防にどう加勢すべきかと、後方からの援護に警戒しながら一定の距離を保っていたシルヴィが駒として浮く。


 だとすれば……戦局は再びステラとシルヴィに傾く。


「シルヴィ、こっちは良い。向うの四人を潰せ」


「あ、わかりました!」


 そしてシルヴィが動き出す。


「くそ……ッ!」


 ステラと焦る男の隣を横切りながら、再び電撃を打ち込む。

 その電撃は、三人の前に張られた結界を粉々に破壊して貫き、結界を張った男を感電させ地に伏せさせた。


 後は……棒状にした結界で蹂躙だ。


 そしてその次の瞬間に放った攻撃に対する男の反応は、これまでと比較的遅かった。

 こちらの攻撃をしっかりと見た上で、なんとか拳に腕を合わせてガードする。

 少なくとも今の男には、辛うじてガードできるだけの出力がある。


 それでもガードの上からでも……自分達の拳は有効打になる。

 それは確信できた。


「っらあ!」


「グァ……ッ!?」


 慢心しているつもりは無い。

 だけどそれだけの力量差が、自分達の間にはあるのだから。

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