37 聖女さん達VS影の男Ⅵ

 そして怒りを宿した口調のままルカは男に……操っている誰かに向けて言う。


「元よりお前達は潰すつもりではあった。だがそれはそれとしてお前は俺の敵だ。お前には俺の私怨も乗せる……今から行くからそこで待ってろ」


「え、ま、まさかコイツ、本当に俺の位置情報を――」


 狼狽えるような声を上げる男にアイアンクローを掛けながら、ルカは私に聞いてくる。


「ベルナール。お前から何か言っておく事はあるか?」


 そんなのない訳が無い。


 今しーちゃんが無事なのかとか、傷が残ったらどうするんだとか、単純に暴力を振るわれた事に対する怒りとか。

 そんなのが色々とぐちゃぐちゃになってるから、山程言いたいことはある。

 だけどそんな事を言ってる暇はないし。

 とりあえず、ありったけを込めた一言だけ。


「ぐちゃぐちゃにしてやる」


 ただ、それだけ。


「……ッ!?」


 男は声にならないような声を上げる。

 驚いてるのかビビってるのか、それは分からないけど……何がどうであれシバく。

 私も私怨だ。

 容赦はするけど……それでも限界まではやる。

 絶対にだ。


「だそうだ」


 そう言ってルカは男を軽く放り投げ、それに合わせて体を動かす。


「そこで好きなだけ震えてろ」


 そして落下してきた男を蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされた男は床をワンバウンドして壁に叩きつけられ、止まる。

 意識は掻き消えた。


 ……そんな男に追撃はしない。

 流石にする訳が無い。


 コイツを含め、これまで倒してきた相手は意識を奪う必要があるとはいえ、本来は殴ったり蹴られたりなんてされるべきじゃない被害者だ。

 怒りをぶつけるべき相手はコイツらじゃない。


 ……操ってるだれかだ。

 全部その誰かが悪い。


 ソイツに全部ぶつける。


 そしてルカに言う。


「やる事が増えちゃったね」


「ああ。子供達の救出にコイツらの計画の阻止」


 そして、とルカも言う。


「ミカ様とお前の知り合いに蹴りを入れた奴をぐちゃぐちゃにしにいく」


 声音が怖い。

 完全にブチギレてるよ。

 ……私もだけど。


「こっから先、もっと迅速に進んでいこうよ。お互い、急いで終わらせて安否確認に行かなきゃみたいだし」


「ああ。俺に力が供給されている以上、無事ではあるんだろうが……それでも心配だ。それにお前に至ってはそれすらも分からない訳だからな」


「……うん。だから急ぐ」


 そんなやり取りを交わした私達は、拳を掌に打ち付けて言う。


「行くぞ」


「絶対潰す」


 そして再び走り出す。

 子供達の救出と、この計画を潰すのと。


 それはそれとして、しーちゃんとルカの所のお姫様に暴力振るった奴をボコボコにする為に。

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