36 聖女さん達VS影の男Ⅴ

「は? え? な、なんだよお前ら急に……」


 困惑するように男が言うけど当然だよ。

 平常心でいる方が難しい。



 シエル……今シエルって言ったよね?

 当然世界でシエルという名前の女の人がしーちゃんだけという訳ではない。

 だから私の脳裏を過った光景と違う事が起きている可能性も。十分にある。


 だけど。


 しーちゃんは男が言う通り恐ろしく勘が鋭くて。

 そして何より、これまで人生何週分かという位にトラブルに首を突っ込んだり巻き込まれたりしてきた実績がある。

 そして…しーちゃんなら、例えば誘拐の現場でも目撃すれば、まず間違いなく首を突っ込む。


 一人だった私を引っ張り上げて連れ出してくれたのは、そういう女の子だったから。



 だからどうしたって、蹴り飛ばされたのがしーちゃんだという考えが頭から離れない。

 目の前の男……いや、目の前の男を操っている頭のおかしい誘拐犯への怒りが、どうしたって抑えられない。



 そしてそれは、ルカも同じ。



 きっとコイツの所の王女様の名前はミカっていうのだろう。

 しかも元聖女だから、精巧な結界だって作れる。

 結界使いと言われてもなんの違和感もない。


 ……で、目の前の男を倒すのは、役割分担的にルカが担当だったよね。

 そしてルカは怒りを極力抑えているような声音で私に言う。


「ベルナール。防御は任せていいか? 俺達の敵の事はうまくやる」


 具体的に何をどうするのかは分からないけれど……向ける怒りの矛先は同じな筈だ。

 いいよ……乗ってやる。


「分かった。任せるよ」


 好きにすればいいよ。


「よし」


 ルカはそう頷いた瞬間、一瞬で男との間合いを詰める。

 そして右手を伸ばして……男の頭を鷲掴みにする。


 アイアンクロー。


多分まともに食らったら身動き一つ取れなくなるんじゃないかなって思うよ。

 だけど向こうの男は操られている。

 痛覚なんて関係が無い。


「馬鹿がきかねえんだよ!」


 普通に動いてルカの足元から棘を生やす。

 腕を動かしルカに殴りかかる。


 だけどそれは……僅かに遅れて接近した私の結界で全部防いだ。


 そしてルカは動じることなくアイアンクローを続ける。


 ……大体やりたい事は分かった。

 別にそれはダメージを与える為にやってる訳じゃない。

 それをやっても私達の敵には届かない。


 だからアイアンクローみたいな形になったのは……怒りで普通に勢い余ってみたいな感じじゃないかなって思うよ。

 本命は、きっと頭に触れている事。


 そしてルカは静かに呟く。


「……見付けた」


 静かに、その言葉に怒りを灯して。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る