ex 受付聖女達、関わってはいけない何かと邂逅する
しばらくして三人で店を出た。
「しっかしこんな所にこんなにいいお店があるとは……今度普通に来たいな」
「シエルさんのお店半分喫茶店みたいな感じですし、普通にライバル店なんじゃないですかね」
「いやぁ、ウチのとこのライバル張ろうってんなら受けて立つよ」
「なんかカッコイイ事言ってるけど、この人今仕事サボってるんだよね」
「そうなんすよ。色々と台無しっすね」
「ウチはやる時はやるんで」
シエルはドヤ顔を浮かべてそう言うが、多分ドヤれる事ではない。
「と、そうだ。別に難しい話じゃないと思うんで一つ聞いても良いっすか?」
と、そんなシエルは置いておいて、ミカに聞きたいことを一つ。
「いいよ。まあ話せる事ならだけど」
「じゃあ。えーっと、ミカが黒装束の二人組ってのが確定した今、一つ疑問があるんすけど、ミカはアンナさんの事見てなかったんすか?」
アンナの話を振り返るに、普通に顔とかを把握していてもおかしくないと思うのだが、その辺りどうなのだろうか?
「ああ、うん。多分見ていたんだろうけど、覚えていないんだ」
「どういう事っすか?」
「あの時私結構無理してて、まあ自分でもよく意識途切れずにやる事やれたなって感じで。ルカ君とアンナさんの前に出て張られていた空間を断絶する結界を壊した後、すぐに意識が飛んじゃって……記憶が曖昧になってて。うん、覚えていなかった」
「なるほど」
「……あ、そうだ!」
思い出したようにミカは言う。
「あの、アンナさんのお仲間って事はアンナさんと一緒に居たお二人とも面識があるんだよね!」
「ああ、はい。普通に友達っすけど……どうかしたっすか?」
「あのカッコいい方のお姉さん、怪我とか大丈夫そうだった!? 私……その、言いにくいけど、殺すつもりで攻撃してたから」
「ぶ、物騒っすね……知ってたっすけど」
まあその時の敵対関係がどうであれ、その問いに嘘を吐く必要なんてのは無くて。
とりあえず少し安心させる為にも、伝えられる事は伝えておく。
「大丈夫っすよ。その時一緒に居たシルヴィさんが治癒魔術で応急処置をして、ちゃんとその後適切な処置もしたらしいっすから」
「そっか、良かった……」
安心するようにミカは言う。
「あと……多分そのシルヴィって人、私の事何か言ってた?」
なんだか今度は酷く怯えた様子でそう聞いて来る。
「いや、特別二人と違うような話はしてなかったと思うっすけど……」
「そ、そっか、良かった……」
どこか安堵したようにミカはそう言う。
「な、何か有ったんすか?」
「ぜ、全面的に悪いのは私なんだけど……こ、怖かった……」
なんだか思い出して泣きそうになってる。
(い、一体何やったんすかね……)
自分の中のシルヴィは主に寝相の所為でちょっと違う意味で怖いけれど、基本的には自分達の中では一番大人しそうな感じで……その時の現場の様子が浮かんでこない。
(ま、まあこれは触れない方が良いっすね)
人のトラウマを抉るようで、あまり気分のいい話では無さそうだ。
と、その話題から意識を反らした所で、シエルが何か考えこむような仕草を見せているのに気が付いた。
「ん? どうかしたっすか?」
「いや、ミカちゃんの正体が分かった以上、あの二人がデートしてるんじゃなくて、何か大事な話をしているって分かった訳じゃん」
「そうっすね」
「……良かった」
改めて安堵するようにミカが言う。
ミカについて分からない事は多いが、ルカという男の事が好きな事は物凄く伝わってくる。
「……良かったっすね」
「……うん」
「……で、そういう仲じゃないって分かったのに、他にその辺で疑問点とかあったすか?」
「いや二人共忘れてると思うんだけど、途中聞こえてきたエロ云々ってアレ何?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あれ何!?」
この一点だけが本当に意味が分からない。
一番の謎と言っても過言ではない気がする。
「いや、そればっかりはマジで分かんないっすね」
「これは後で問い詰めよう」
「私も……ルカ君に聞く。絶対に聞く。そういう仲じゃないならそれはそれで意味わかんないし……そういう仲じゃないんなら」
(ま、また不安が再燃しているっすね……)
と、そんな多分どうでも良いような事を考えながら、喫茶店から移動していた。
ある程度の人混み。
何の変哲もない日常の街並み。
そこを元聖女二人と、その内情に踏み込む者の三人という少々異質な三人が歩く。
そしてその異質な三人……いや、聖女二人をもってしても。
「「……ッ!?」」
今すれ違った平凡な見てくれの男が、絶対に関わってはいけない何かだと認識する程の異質、異物に感じられた。
(なん……すか今の奴……ッ!?)
自然と体が震えた。
その男からはアンナ達程ではないにしてもとても大きな力を感じられて。
そして、それだけではない。
どす黒い何か。
生理的嫌悪が湧き上がってくるような……とにかく、絶対に関わってはいけない相手だと、全身が訴えていた。
そしてそんな風に意識が強くそちらに向いたからだろうか?
「……て」
子供の様な声が。
「……けて」
男の足元。
男の影から聞こえた。
助けを求めている様にも聞こえる、そんな声が。
(え、一体何……子供の声……コイツ絶対ヤバい奴で……まって、一体どうす――)
あまりにも唐突に起きた緊急事態とも呼べるような状況で、適切な行動を取る為に必死に思考回路をフル稼働させる。
そしてその答えが出る前に。
同じく何かを考えていただろうミカが動き出す前に。
「はいちょっと待ってそこのお兄さん」
歩き去ろうとする男の肩を、シエルが掴んでいた。
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