ex 聖女の親友、名推理
そしてミカの方も、シズクがある程度の状況を把握した事に気付いたらしい。
「……」
「……」
自然と二人でアイコンタクトを取る。
言葉を交わした訳ではないが。
お互いがお互いの事をどこまで把握したのかは分からないが。
それでもこの場で自分達が取るべき行動は何なのかという意思は統一できた気がする。
「次の……次の情報プリーズ!」
「シエルさん」
「ん? どったのシズクちゃん。何か分かった?」
「あ、いや、そういう訳じゃないんすけど……とりあえず注文した物を食べ終わったら、お店でないっすか?」
今やるべき事は、とりあえず二人の邪魔にならないようにシエルをこの場から連れ出す事だ。
「え? 急にどうしたの?」
「私も同意件です。ちょっとこれは邪魔できないですね」
「ミカちゃんまで!? えぇ!? 色々と謎が残ったままじゃん! 二人の関係性とか、これそのままにして大丈夫なのかとか!」
「多分恋仲とかじゃねえっすよ。まあ、その……あれっす。今のアンナさんが置かれた状況が色々と大変って事は知ってるっすよね」
「え、あ、うん、知ってるけど……あっちゃん追放された元聖女な訳だし。無茶苦茶大変……」
そう言ったシエルは少し考えるように一拍空けてから呟く。
「……そっち絡みの話って事?」
「そういう事だと思うっす。根拠は……まあ、説明難しいんで、同じ立場のボクには何か感じる物があったって事で。正直あまり外野が口出ししない方が良い感じの話っすよ」
説明を今、面と向かって言う事はできない。
それを話せば、自分が辿り着いたルカとミカの正体を口にすることになる訳だが、それができない。
今ミカがこちらの情報をどこまで掴んでいるかが分からないから。
多分自分やアンナが元聖女だとは把握していても、アンナが先日ルカやミカと戦った三人の聖女の内の一人だとは把握していないんじゃないかと思う。
もししていれば、此処までもっと違った反応をしていた筈だ。
直接的に相対しなかったのか、ミカはアンナの事を知らなかった。
故に今も、世界中で同時期に追放されている聖女の一人と接触したと認識しているだけの可能性だって十分ある。
自分の事も、自分達と戦った相手の仲間ではなく、ルカが偶然知り合った何処かの国の聖女の仲間だと思われている可能性も十分にある。
だとすれば。
(……いくら敵じゃないって思っても、結局慎重に進めていくに越した事は無いんすよね)
仮にも一度自分の居ない所で命のやり取りをしているのだから。
こんな街中で。
そして有事の際にどこまで動けるか分からないシエルの居る状況で、ミカ達を、きっとあの山でそうだったような、戦わざるを得ない状況に陥らせる訳にはいかない。
そういう状況下では、実は善人なんていう条件など何の意味も持たないだろうから。
事実三人は殺されかけたのだから。
だから、此処は無理にでも誤魔化す。
余計な火種は灯させない。
歩み寄るにしても徐々に、徐々に慎重にやる。
目の前の少女との付き合い方は、自分が思っている以上にデリケートな筈だから。
「うん……じゃあそういう事……なのかな? 同じ立場のシズクちゃんがそう言うなら」
(よし! 話が分かる人で助かるっすよ!)
心中で胸を撫で下ろす。
面倒な事態にならなくてとりあえず助かった。
……と、そう思っていた訳だけど。
「あ、そしたらミカちゃんは何でそんな急に態度変わっちゃったの? シズクちゃんみたいに元聖女とかなら分かるけど」
シエルが今度はミカに話を振り出した。
「あ、それは……」
きっと、何か適当な嘘を吐こうとしたのだろう。
だけどそれがミカの口から出る前に。
「……あ」
突然天啓が下りたようにシエルは言う。
「あ、分かった。ウチ分かったよシズクちゃん」
真剣な表情で、事件を調査する名探偵の様に。
「ミカちゃんと向うのルカって男の人が、あっちゃん達が戦ったっていう黒装束の二人組だ」
そのまま胸に秘めていて欲しかった名推理を。
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