ex 受付聖女達、自己紹介
自分達と同等の力を持っている。
そんな相手に、もしかしたらこの人も聖女だったりして、なんて楽観的な考えを向ける事はもうない。
もしかしてではなく、ほぼ間違いなくどこかの国の聖女だ。
当然他の能性も捨て切れはしないけれど、それでも既に自分を含めて四人も聖女が追放されてこの国に集結している時点で、おそらく聖女だという仮定がまず真っ先に前に出てくる。
(だとしたらこれで六人目って事になるんすか?)
自分にアンナ。シルヴィにステラ。
そして三人が戦った黒装束の二人組の女の子の方。
この四人に続く六人目。
そこまで考えて、思い止まった。
(……いや、違う……この子が五人目なんじゃ……)
確かに自分達と同じような立場に置かれた聖女がもう一人。
即ち六人目はいてもおかしくなくて、それが目の前の少女という可能性も十分にあるだろう。
だけどその可能性よりも、既にいる事がほぼ間違いない五人目の可能性の方が高いように思える。
そして仮に目の前の少女が黒装束の二人組の片割れなのだとすれば。
(え、だとしたらアンナさんとデートしてるあの人って、それこそアンナさんをぶっ殺そうとした相手じゃないんすか!?)
目の前の少女と親しい仲なのだとすれば、もうそうとしか考えられない。
(え、これどうなんすか? アンナさん気付いてるんすか!? いや、顔は仮面で隠れてたっぽいし……こ、これ普通にアンナさん危ないんじゃないっすか!? それこそ悪い男に捕まってる的な……くそ、これボクどうするのが正解なんすか!?)
なんだか人の恋愛模様が気になって首を突っ込んだのに、とんでもない事態に発展してしまっていて、混乱する。
と、とにかく色々と事情が変わってしまった。
目の前の少女やアンナの対面に座る男が件の黒装束だとするならば、慎重に選択していかなければならない。
今この状況が異質な事に気付いているのは、おそらく自分一人だけなのだから。
と、一人でそんな事を考えるシズクをよそにシエルが言う。
「さてさて、向こうは一体どんな会話しているのやら……うーん、ここら辺ならギリギリ話を盗み聞きできると思ったんだけどなー。全然聞こえない。なんか分かりやすいアクションしてくれないかなー」
「そ、そうですね……一体どんな会話をしているんですかね……っと、そろそろ店員さん注文聞きに来そうなんで、とりあえず何を頼むか決めませんか」
「そだね……あ、というかシズクちゃん認識阻害とか防音の結界張ったって言ってたけど、これ店員さん注文取りにこれるの?」
「ああ、その辺は大丈夫っす。店員さんはボク達のテーブルに注文を取りに行こうって意識を持ってる筈っすから。認識阻害といっても別に透明人間になれるって訳じゃないんすよ」
「えーっと、シズクさん、で良いんでしたっけ? 防音の方はどうなんですか? 店員さんに声聞こえます?」
「ああ、注文の時だけ防音の効力を取っ払うっす。その位ならボク達ただ注文してる客なんで変な目立ち方もしないと思うんで、露骨に向こうに感づかれそうな事でもしない限りバレる事は無いと思うっすよ……あ、あと別に呼び捨てで良いっすよ。多分同年代くらいじゃないかなって思うんすけど……年いくつっすか?」
「えーっと、じゅ、16です」
「あ、同い年っすね。だったらシズクでいいっすよ。まあ誰にでもそういう風に話してるってならそれでいいっすけど」
多分シルヴィとかもそんな感じだし、とシズクは思う。
「そ、そう? えーっと……じゃあシズク……でいいかな?」
「ああ、それで良いっすよ」
話し方も柔らかくなったので、多分これが素なのだろう。
「そういえばこうして一緒に尾行なんてしているのに、お互い自己紹介とかしてなかったね。ウチはシエル。ちなみに18歳。どうぞよろしく……あ、ウチも敬語とか良いよ。一緒にこういう事やってる仲に上下も何も無いと思うからさ」
「あ、じゃ、じゃあよろしくシエルさん」
言葉は柔らかいが流石にさん付けで呼ぶ辺り、結構しっかりしている。
そして今度は少女の番。
「私はミカ。えーっと、今だけの短い付き合いかもしれないけど……よろしく」
「よろしくっす」
(……本当に今だけの付き合いになるんすかね?)
件の黒装束だとすれば少し長い付き合いになりそうだと。
シズクはこの意味が分からない状況の中で少し気を引き締めながらそう思った。
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