4 聖女さん、とあるクズの話

 しーちゃんと出会う前の私のコミュ力が壊滅的だった事について、正直な話私に落ち度はなかったんじゃないかって思ってる。

 あまり人に責任を擦り付けるような事はしたくないけれど、それでもあの事に関してだけはそう思うんだ。


 全部あのクズ……私の父が悪い。


 ……結局冗談なのか半分信じているのか分からないけど、シルヴィが私に言ったヤバい研究をしているんじゃないかって話。

 あれはシルヴィに言った通り、本当にそんな事はしていない。

 私は人に胸を張れるような研究を現在進行形でしている。


 ……私は。


 結論だけを言えばお父さんがそういうヤバい研究をしている、いわばマッドサイエンティストのような人間だった。


 だから悪い噂しか立たなくて、その半分くらいは当たっているような状態で。

 森の中の家を訪ねてくる人達も、類は友を呼ぶといった風な明らかにおかしい人たちだらけで。


 そんな所に住んでいる私も、端から見れば同類でしかなかった。

 最低限のコミュニケーションを取る為のハードルが高すぎた。


 そしたらしーちゃんが半ば強引に私の事を訪ねてきた時には気が付けば私は碌にコミュニケーションが取れないような状態になっていて、本当にしーちゃんと仲良くならなかったら今頃私がどうなっていたのかは本当に分からない。


 そんな、あまり深く掘り下げたくない昔の話。


 そういう核心に触れるような話はしーちゃんが全部うまく回避して、話せそうなところだけをうまく掻い摘んで。

 自然と私としーちゃんの昔話は終わった。

 うまく、違和感なく終わらせてくれた。


 そしてそれが終われば、そこから始めるのは別に何も隠す必要なんてない最近の話。


 幸いと言って良いかは分からないけど、私達には初対面の相手や久しぶりに会った相手に話すのに適した鉄板ネタがあって、勿論その事も話した。


「え、あっちゃんあれから聖女やってたの!?」


「うん、前の聖女さんが急病で亡くなったみたいで。それで私に王様が直々に頭下げに来たんだ」


「へぇ、すっご。まああっちゃんなら聖女位楽勝にできそうだよね。魔術の天才だし」


「あの頃よりもっと色々できるようになったよ」


「まあそうだろうね……で、なんで聖女の筈のあっちゃんがこの国で冒険者なんてやってるの?」


「実はね――」


 そして鉄板ネタを披露すると、露骨に不機嫌そうにあっちゃんは言う。


「いや、ないわそれ。何考えてんのあの馬鹿王子……いや、もう馬鹿王なのか」


 私を追放したあのバカに対して怒り心頭だ。


「あっちゃんも滅茶苦茶可愛いやろがい!」


「え、そこなの?」


「そこもだよ! あーもう全く信じられないねあのバカは。引っ越して正解だったわ……世界中探してもそんな馬鹿アイツしかいないでしょ」


「と、思うでしょ? 実は私以外の三人も元聖女で追放されて冒険者やってるんだ」


「またまた流石にそれは冗談……え? 嘘でしょ?」


「あ、本当です。一応……」


「俺は本業ウェイトレスで冒険者は副業だけど、マジでそんな感じ」


「あ、ボクも副業っすね。本業の受付嬢謹慎喰らったんで」


「……ねえ、これ笑い話にして良い奴?」


「まあもう良いんじゃねえかな。寧ろ変に重くなられるより笑いのタネにでもされた方が良い気がするわ」


「確かにそうですね。もう割り切って前に進んでる訳ですし」


「そんな訳だから笑い話で良いんじゃない」


「ボクもそう思うっすね」


「そっか……皆がそう言うんならあんまり暗い空気にはできないね」


 そう言ってしーちゃんは笑う。


「え、マジで謹慎って何やらかしたの?」


「「「「そこぉ!?」」」」


「いやいや、流石にそれは冗談……でもごめん、ちょっと真面目な話していい? ……大丈夫? 一体何やったの?」


 ガチで心配してるよ。

 うん、聖女が四人追放されましたよりも仕事で大変な事になりましたの方が、現実感あって心配になってくるのは分かるよ。


「えーっと、実は――」


 とまあその後軽い説明で謹慎理由と、とりあえず当面の生活は大丈夫という話を伝えられた所で、話は聖女追放の件へと戻る。

 たださっき笑い話にしていいかと聞いていたものの、一度真面目な話をするノリに切り替わっちゃった以上、いくらノリと勢いで生きているようなしーちゃんでも笑い話という風にはいかない。

 寧ろノリと勢いに重きを置いているからこそ、そういう雰囲気でスイッチが入れば凄く真面目な事を言ってくれる。


「……多分他の人にも言われてるかもしれないけど、四人も同じ条件でってなるとただの馬鹿のご乱心って感じじゃなさそうだね」


 真面目なスイッチが入ったしーちゃんは、大体クライドさんと同じような感想を持つ。

 ……というかこれが普通の反応なのかもしれない。

 正直今にしてみれば、私とシルヴィが出会った時点で二人共そういう考えに至ってないとまずかったんじゃないかな?

 ……まあ終わった事は仕方ない。


「一応今の私達は世界で何かが起きてるんじゃないかなって思ってる」


「ウチもそう思うよ。だから……四人共、気を付けてね。正直もし本当に何かが起きてるんだとしたら、何に巻き込まれてもおかしくない訳だからさ」


「うん、肝に銘じておくよ」


 まあ私とシルヴィとステラは既に巻き込まれたんだけどね。

 ……で、何かに巻き込まれると言えばだ。


「で、巻き込まれるといえば……しーちゃんはこっちの国に来てから大丈夫だった?」


「え? もしかしてなんですけど、シエルさんも私達程度には何かに巻き込まれるかもしれないような人って事なんですか?」


「いや、そういう訳じゃないよ」


 シルヴィにそう返答する。

 ……いや、多分聞いていた意図と違うだけで、文面だけ見たら間違っていないのかもしれないけど。


「しーちゃんは昔から巻き込まれ体質でさ、気が付けば変な事件の中心に居たりするんだ」


「変な事件の中心……例えば?」


「まあ流石に複雑だから詳しくは説明できないんだけど……その度に助けたりしてたら私の実践での戦闘スキルが上がったよ」


「……これは相当ヤバい事に巻き込まれまくってますね」


「ああ。あの強さがそこで培われたって考えると、相当な大事だぞ」


 いや、二人共他人事みたいに言ってるけど、二人もあそこまでの強さ身に着けるに至った何かがあるでしょ。

 まあシルヴィはともかく……ステラの格闘センスはそうじゃないと説明付かないんだけど……マジでどういう経緯で身に着いたのかな?


 まあ……踏み込まないけどさ。


「で、そんなシエルさんは最近大丈夫だったんすか? まあアンナさんもいないっすから、何かあったらそもそも此処にいないんじゃないかなって思うんすけど」


「まあ最近はそんなにかな」


「……良かった」


 それが聞けてほっとした。

 心配だったんだ凄く。


「最近だと精々麻薬の取引現場に偶然居合わせたりした位かな」


「いやとんでもない事に巻き込まれてるよ!?」


 いや、まあ昔もっと凄い事に巻き込まれてたけど……いやそれはそれとしてとんでもないよ!


「え、何。大丈夫だったのかそれ」


「まあ大丈夫じゃなかったら此処にいないよ。あっちゃんに護身術代わりに色々魔術習ってたからね。いやー危うく消されそうになったけどなんとか撃退できたよ」


「良かった! 色々仕込んどいてよかった!」


 ナイス昔の私!

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