3 聖女さん、昔の話
突然の再会で嬉しさや困惑の感情がぐちゃぐちゃになったけど、それでも此処で立ち話をするのがあまり良くないって事位は良く分かった。
今まで気持ちよかった歓声や騒めきも、こうなってしまえば申し訳ないけど雑音で。
そしてこの一角を私達で占拠し続けるのはお店にも迷惑だしね。
だから店員さんに今度は何か買いに来ますとだけ言って会釈して、私達は場所を移す事にした。
そうして移動したのはすぐ近くのお菓子屋さんだ。
ショーウィンドウの中を見る感じ、色々と幅広く扱っているらしくどれもおいしそう。
で、このお店には店内で食事ができるイートインスペースが併設されていて、実質的に喫茶店としても機能しているようだった。
で、このお店をチョイスした理由は一つ。
「ただいまー。あ、お母さんちょっと奥の方の空いてる所使うね」
此処がシエルの家だからだ。
「あ、そうだ。折角だしお好きなのを選びたまえよ! おっとお代は心配するな、ウチのバイト代から天引きされるから!」
「いや、普通に悪いから払うよ」
「まあまあ。此処は再会記念って事で。ウチの気持ち、受け取ってくんな!」
そう言ってグーサインを出すしーちゃん。
……このなんかうるさい感じの雰囲気、変わってないなぁ。
凄い安心する。
そして店内に居た同じくあまり変わった様子がしないシエルのお母さんも、一連のやり取りの後私の顔を見て、はっとするような表情を浮かべる。
「え、もしかしてアンナちゃん?」
「あ、はい! お久しぶりです!」
「え、何? どうしたの? もしかして旅行にでもきたの?」
「まあまあお母さん。その辺りはウチも何も聞いてないからウチより先に聞かないでよ……あ、ほら、向こうでお客さん呼んでるよ」
「あ、ほんとだ……じゃあゆっくりしていってね」
そう言って接客へと向かっていく。
「あぶねー。折角落ち着いて話せる場になるまで聞きたい事何も聞かずに来たって言うのに、ウチの頑張りが台無しになる所だったよ」
「その頑張りのおかげで私とシズク以外の約二名は、しーちゃんの事謎の人物扱いのままだけどね」
此処までお互いテンション爆上がりだったものの、殆ど中身のある話をしないで此処まで来た。
まあほんと数件隣だったから一瞬だったんだけど、その所為で私としーちゃん以外はほぼ置いてけぼりな状況である。
「まあ仲よさげだし、アンナの境遇考えると元居た国での友達かなんかかなってのは分かるよ」
「私の読みもそんな感じですね」
「なるほど……という事はボクとアンナさん、友達の友達って関係になるっすね」
「いや私達普通に友達でしょ。なんで距離離れてんの?」
「ま、答え合わせはこれからって事で。とりあえず何か食べたい物選んでよ」
「あ、じゃあお言葉に甘えて」
そんな訳で私達はそれぞれお菓子を選ぶ。
今回は色々ある中でそれぞれケーキを選択。
私がチョコレートケーキでシルヴィがショートケーキ。
ステラがチーズケーキでシズクが抹茶ケーキだ。
そしてコーヒーも出していただき着席。
「じゃあ早速、ウチが誰なのか約二名分かってないと思うので軽く自己紹介しとくよ」
そう言ってしーちゃんは笑みを浮かべて言う。
「ウチはシエル。まあざっくり言うとあっちゃん……アンナの親友って感じ。よろしくね」
そしてそんな自己紹介に、面識が無かった二人が同じく自己紹介を返す。
「わ、私はシルヴィです。今は冒険者をやってて……アンナさんのお友達って感じです」
「俺はステラ。俺は飲食店のウェイトレスと……後は副業で冒険者やってる。まあ言わなくても分かるとは思うけど、アンナの友達」
「成程成程……って事はシズクちゃんもそうか」
「そうっすね。私もそんな感じっす」
「今はこの四人で冒険者やってるんだ。始めたばっかりだけど」
「……そっか」
しーちゃんはどこか安心したような表情を浮かべて言う。
「あのコミュ障が服を着て歩いてたようなあっちゃんがちゃんと友達作れてるなんて、正直安心したよ」
「ちょ、しーちゃんそれ大分昔の話じゃん……でもほんと、お陰様でうまくやれてるよ」
……本当にお陰様で。
「え、なんか意外ですね。アンナさん、普通に堂々と前に出れるようなタイプだと思うんですけど昔は違ったんですか?」
「だな。今も俺達のリーダーみてえなもんだし」
「え、そうなの?」
「「「違うの?」」」
え、新事実なんだけど。
そりゃ私とシルヴィから始まったパーティーだし、最初に依頼受ける時とか私が代表してシズクから話聞いてたみたいなものだったけど……いつの間に。
まあ良いけど。
「そんな訳で私がリーダーみたいなんで、リーダーとして一つ指示を。昔の話は結構恥ずかしいんであんまり掘り下げないでね」
「で、昔のアンナってどんな感じだったんだよ」
「気になりますね」
「ボクも聞きたいっす」
「別にフリで言ってるんじゃないんだけど……まあいいけどさ」
軽くため息を付いてから言う。
「昔の私は正直洒落になってない位人とコミュニケーション取るの苦手でさ、冗談抜きで友達とか一人も居なかった感じだったんだ」
「ごめん、触れちゃいけない事に触れちまった。マジで悪い」
「すみません、興味本位で聞いちゃいけない話でした」
「えーっと……ボクの抹茶ケーキ。良かったら食べるっすか?」
「いらないし、あと別に触れても良い話だよ。本当に言えないような事なら話してない。なんだかんだ話してるって事はつまりそういう事だから」
しーちゃんも、世間話で話せるラインを見定めてそういう話を口にしたんだと思う。
……その辺のラインの見極めをできるのがしーちゃんだ。
そして当時もその絶妙なラインを綱渡りするみたいに、懐に潜り込んできたしーちゃんは言う。
「で、ウチが友達第一号!」
そう言ってドヤ顔を浮かべるしーちゃん。
「ほんと無茶苦茶ぐいぐい距離詰めて来てね……そのまま色々話したり遊んだりするようになった結果、気が付けば今の私の出来上がりだよ」
「いやーあっちゃんのコミュ力つよつよ大作戦は繊細で大変なプロジェクトでした」
「いやだいぶ荒療治だったよ。一歩間違えたら私完全に引きこもってたよ?」
……まあそこは、本当にしーちゃんがうまかったって事なんだけど。
……とまあそんな感じ。
「荒療治って一体何したんだよ」
「実はしーちゃんがさぁ――」
そこから少しその荒療治……といっても今にして思えば普通に遊んでいただけの話を軽くして、私の昔の話っていう話題は一旦終わった。
その間話したことは、全部話しても大丈夫な事だけ。
しーちゃんもそのラインは分かっていて、絶対に踏み越えなかった。
そっちに話がそれそうになっても、うまく三人を誘導してくれた。
……流石にこれは話すのが億劫だ。
コミュ障だった私が、陽の塊みたいなしーちゃんに引きずり上げられて、今の感じになった理由はいくらでも話せても。
……人とまともにコミュニケーションが取れなくなった理由なんてのは、気軽に話せるような事じゃない。
絶対にそっちに話がいかないように、しーちゃんはうまくやってくれている。
ああそうだ。
あんなのは、あまり進んで話したくはない。
あまり思い返したくも無い。
黙っているのはそういう話だ。
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