67 受付聖女、ジャッジメント
そしてクライドさんは軽く咳払いしてから言う。
「実はこの度……」
「こ、この度……」
「なんと!」
「な、なんと……」
「俺は上層部の罵詈雑言を浴びながらも二か月の謹慎処分という軽すぎる処分を勝ち取ったぜ!」
「お、おおおお! や、やったー! で良いんすかね……?」
シズクはイマイチテンションに乗り切れていない様子。
まあ確かに軽い処分とはいえ謹慎二か月は喰らってる訳だし、そうなるのも分かる。
……でも。
「良いんじゃない。クビにならずに済んだんなら」
「二か月経てば職場復帰できる訳ですし」
「とりあえず一安心だな。おめでとう」
「あ、ありがとうっす……なんか謹慎喰らっておめでとうって言われるのは凄い違和感あるっすけど。まあとりあえず……良かったっす」
ひとまずシズクも安心はしているみたいで良かった。
「一応お咎めなしにならねえか粘っては見たんだけどよ、流石にそれは無理だった。そこんところは俺の力不足だ。俺がもうちょい偉けりゃな」
「あ、いや、十分っす。ほんとお手数かけました。ありがとうっす!」
「良いって良いって。まあこれから二か月仕事出ない分、戻ってきたら無茶苦茶頑張ってもらうからよ、そこんところはよろしく」
「はい!」
……うん、とりあえず最善の形で決着が付いたって感じかな。
良かったよ。そもそもの原因が私達だから尚更。
と、此処でシズクが何やら引っ掛かる事があったようで、クライドさんに問いかける。
「えーっと……ちなみになんすけど、さっき罵詈雑言を浴びながらって言ってたっすけど……その、部長は大丈夫だったんすか?」
「大丈夫? メンタルの方ならあの程度で壊れる程脆くねえよ。中間管理職舐めんな」
「いや、そうじゃなくて……ほら、部長はこの部署管理してる人っすから。多少なりとも暴言以外に、もっと生々しく巻き込んじゃったりしてないかなーって」
「ッ……いや、何も無かった。死ぬ程暴言吐かれただけだ」
一瞬痛い所を突かれたというような表情を浮かべたのが見えた。
……ああ、うん。何かあったんだ。
「何かあったんすね」
「だから何もねえって」
「あったんすね」
そんな風に何度も問い詰められて、もう隠せないと思ったのかもしれない。
クライドさんは、苦笑いを浮かべて言う。
「ほんのちょーっとだけ減給にな。ほんのちょっと」
指でその小ささを表現するクライドさんだけど……うん、多分結構ガッツリ持っていかれてるんじゃないかな。
あのほんと……すみませんでした。
そして、その額が大きかろうと小さかろうと減給処分を受けている事には間違いなくて。
「……」
シズクは一瞬の静寂の後、動き出す。
ゆっくりとその場に跪き……ど、土下座ぁ!?
「ほんと、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
本気のガチ謝罪だ。
「あ、ちょ、おい馬鹿! んな事しなくていいって!」
「いや、でも本当に申し訳なくて」
シズクは頭を上げない。
でも……あーっと、此処は上げた方が良いんじゃないかな。
なんというか、その……絵面がヤバい。
完全にその筋の人が若い女の子を土下座させているような絵面で……まるで世界の闇を凝縮したような空間に見えるよ。
事情を知ってる私達からも……当然知らない人からも。
「あ、おい! 女の子が土下座させられてるぞ!」
「な、何事!?」
「て、あの子受付嬢の子じゃない!?」
「あのマフィアみたいな奴は此処の部長かなんかじゃなかったか!?」
「え、あ、と、とにかく事件性が凄い!」
もうギルドの中大騒ぎだよ。
「ちょ、ほら、頼むから顔上げてくんねえ!? 俺とんでもねえ風評被害受け始めてんだけど」
「え、さ、更にご迷惑を掛けてしまって……すんませんっす!」
「ごめーん話聞いてる!? 俺頭上げてってお前にお願いしてんだけどぉ!? は、はーい皆さん別にこれ強要してる訳とかじゃないんで……おい、アリア。悪いが向うで騒いでる冒険者連中に事情説明してきてくれねえ! 早急に!」
クライドさんは近くに居た、昨日報告に行った時に何度か話に割って入ってきていた受付嬢さんに助けを求めるけど……昨日の反応見る感じ悪手な気がするよ。
「ぱ、パワハラだー! 部長がパワハラしてるー!」
「おいアリアお前ふざけんなよマジで! ……ってちょっと待って。何で他の連中もパワハラ現場目撃したような目で俺を見てんの? 内部の人間は全員こうなるに至る要因把握してるよな!? いっつも思うけどこういう時全力でふざけるよなお前ら! くそぉ! 此処に俺の味方は居ねえのか!?」
「ぼ、ボクに出来る事あるっすか!?」
「お前はまず頭上げろっつってんだろォ!?」
……なんかもう滅茶苦茶だ。
「と、とんでもなく賑やかだね」
「まあ私達の元職場よりも良いんじゃないですかね?」
「うん、まあそれは間違いない……と思う」
やや半信半疑だけど私もそう思うよ。
ちなみにこの後、タイミングを見計らって受付嬢さん達が全力で冒険者を一人も外に逃がさずに無事釈明してくれて誤解は無事解けた。
それはもう全力だった。
先陣切って遊んでた筈のアリアさんが一番必死だった。
皆クライドさんの事無茶苦茶ナメてると思うけど、一応人望はちゃんとある……のかな?
なんかもう良く分かんないけど。
そして一段落付いた後シズクに問いかける。
「ちなみにシズクの土下座はどこら辺からノリだったの?」
「え、最初から最後までガチだったすよ」
「え、マジで? ……まあお前らしいといえばお前らしいか」
クライドさんは軽くため息を付いてから言う。
「で、お前の処分はさっき言った通りなんだけどよ……お前それまでの間生活どうするつもりなんだ? お前給料日からそんなに経ってないのに今月ピンチとか言ってたの聞いたぞ。こっから二か月収入無しで家賃も掛かるし食費も掛かるし……少し貸そうか?」
「気を付けてシズクちゃん! 絶対金利高いよ! 見かけ通り絶対ヤバイ金利設定してるって! そして返せなかったら……ごめんね、此処から先は私には言えない」
「人を悪質なヤミ金みたいに言うの止めて貰っていい?」
「部長、まさか人身売買に手を染めてたんっすか……」
「待って、お前本気で信じてないよな? 最初から最後まで全部アリアの嘘だからな? 無利子無担保だし人身売買もしてねえからな?」
「まあ流石にそれは分かってるっす。確かにヤミ金とか人身売買とか違法薬物のブローカーとかやってそうな風貌っすけど、私を含め此処で働いてる人は皆部長が凄くまともな人だって事は知ってるっすから」
「それはありがてえけど、違法薬物のブローカーって付け加える必要あったか? ……で、どうするよ」
「ああ、お金ならとりあえず大丈夫っす。部長も減給喰らったんなら、人の心配より自分の心配してほしいっす」
「じゃあどうすんだよ」
その問いには私が答える事にした。
「ああ、シズクならひとまず冒険者になって、私達のパーティーに入れる事になってるから。とりあえず謹慎期間中の生活はしていけると思うよ」
「あ、そうなのか。そういう事なら……まあ安心だな」
そう言ってクライドさんは軽く私達に頭を下げる。
「あの、さっきからの流れの通り結構アレな所もあるけど、悪い奴じゃねえから。コイツの事よろしく頼むわ」
「「「はい」」」
クライドさんの言葉に私達は三人揃ってそう答える。
いや、ほんと……良い上司じゃん。
ほんの一ミリでもいいんで、あの馬鹿にその上司力分けてやってくれないかな。
「じゃあそういう事ならお前のギルドカードも発行してくるわ。個人情報とかは把握してるから速攻で作ってくるし待ってろ」
「あ、そういう雑用私やってくるんで。というか部長煙草休憩入った瞬間戻ってきたじゃないですか。さっきまで滅茶苦茶な量の書類片付けてた後なんですからゆっくり休んでてくださいよ」
「お、ああ。分かった……お前飴と鞭の使い分けエグいな」
苦笑いを浮かべながらそう言ってクライドさんは立ち上がる。
「じゃあ俺はこれで。後の事はアイツに任せるわ。俺はちょっくらニコチン摂取しに行ってくる」
「あ、お疲れ様です!」
「うーい」
そんな適当な相槌を返しながらクライドさんは、煙草を吸う為に外へと歩いて行く。
アリアさんもそのまま奥の方へ消えていった。
そしてそんな二人を見てシズクは言う。
「ボクやっぱり此処の雰囲気好きなんすよ。だから二か月たったらちゃんと職場復帰はするし、そうなったら皆さんとはたまにしか仕事できない感じになると思うっす……そんなボクですけど、改めてこれからよろしくっす」
そんな事は最初から分かってるから、別に態度は変わらない。
「うん、よろしく」
「よろしくお願いします」
「そもそも俺は既にそんな感じだからな。まあよろしく」
そしてその後、アリアさんがシズクのギルドカードを持ってきて、シズクは正式に冒険者になった。
だからこれで、正式に四人パーティーが結成された訳だ。
元聖女四人による唯一無二の冒険者パーティーが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます