60 聖女くん、これからの事

「まあやらなきゃいけねえ理由はなくなっても、辞める理由はねえから辞めねえよ。というか辞めんならこうやって歩き出す前にまずそういう話してるって」


 よ、良かった辞める気無いみたい!


「あ、でもそういう目的があってパーティーに入れて貰ったみたいな感じだし、そもそも兼業になるから、皆が良かったらって事になるんだけど……どうかな?」


「いや駄目な理由とかないって! 兼業なのは元々受け入れてたし。だから寧ろ俺冒険者辞めるわとか言われなくて安心したよ」


「そうですよ、これからもよろしくお願いします!」


「ボクは新参なんであまり言える事ないっすけど、折角こんな四人が奇跡的に集まってる訳っすから。このままうまく仲良くしていきたいとは思うっすよ」


「……そっか。ありがとな」


 ステラが安堵するようにそう言って、それを見ながら私達も安堵する。

 いや、ほんと良かった。

 別にステラが冒険者を止めてもそれで縁が切れるわけじゃないと思うけど……なんか、いいじゃん。今のこの感じ。

 だからステラがそのつもりでいてくれて、本当に良かったと思う。


 そんな訳で四人パーティーが早速三人になる事もなく、無事これから先の一歩目を踏みだせそうだった。




 その後、シズクの案内で辿り着いた商店街で食材を購入。

 とりあえず折角だし何か色々作ろうって事で色々と買い込んだ私達は、その後シズクの家へ。


「「「お邪魔しまーす」」」


「いや、良いっすよボクの部屋は素通りするだけなんすから」


「部屋素通りってすげえ不思議体験だよな」


「わ、私も二回目だけど慣れませんよ」


「これから何度もやる事になると思うから慣れてよ」


 と、そんな会話をしながらシズクの部屋へ上がる。

 うん、落ち着いた部屋だ。

 ……というか落ち着きすぎじゃない?


「あの、シズク。なんというか……シズクはあんまり家具とか置かないタイプ?」


「色々買い揃えるだけのお金が無いタイプっす」


「あの……ごめん」


 とりあえず一緒にお金稼ごうね。

 ……っと、まあ部屋が良くも悪くも散らかってないおかげでやりやすい。


「じゃあこの辺りちょっと使うね」


「どうぞっす」


 そしてシズクの許可を取った後、転移魔術の魔法陣を床に張る。


「……よし、完成。これで行けるよ」


「……しっかし此処から別の国へ飛ぶ訳だろ? 簡単に使ってるように見えて相当凄い術式なんだよな?」


「まあ凄くないとは言わないけど、そこまでの物じゃないと思うよ? 結局これは事前に設定した所にしか飛べないから。どこでどう頑張っても私の家にしか飛べないし、此処にしか帰ってこれない。そういう限定的な術式だから距離を稼げてる感じはするよね」


 ……だから瞬時にその場で転移する座標を決めて跳ぶような事をやっていた黒装束の男の転移魔術と、これだけ距離が離れていてなお同等って感じな気がする。

 ……少なくとも私にはあの芸当はできないしね。


「とにかく準備は出来たから、早速行こうよ」


 そう言ってまずは率先して私が魔法陣に飛び込む。

 そして次の瞬間、視界に映るのは森の木々と私の家。


 今朝家を出て、なんか色々と死闘を繰り広げたりしたけど、とりあえず無事帰宅だ。


 そして私に続いて続々と皆がやってくる。


「お邪魔します」


「お邪魔するっす。うわ、本当に森の中っすね」


 まずはシルヴィとシズク。


「お邪魔しまーす。へえ此処がアンナの家か」


 そして最後にステラだ。


「自宅兼研究所って感じかな」


「そう言えば此処で見られたらマズい研究してるって話だったな」


「ま、まだこのノリ続いてたんだ!」


「マズい……研究? ちょっとまって欲しいっすよ。これこの場所破棄せずに隠してるのって……もしかしてボク達、とんでもない事に加担させられようとしてるんじゃないっすか!?」


「いやだから誤解だって!」


 くそ! シルヴィの寝相の件は信じなかったのにこっちは信じそうになってるよ!

 寝相が悪いのとマッドでヤバい研究してるのだったら、寝相の方が現実味あるじゃん! そっち否定したんならこっちも真っすぐに嘘だと判断……いや、寝相悪くて本棚の上で寝てる方が現実味無いよ。

 完敗だよ!


「よし、こうなったら後で私の研究内容を見せるよ。それで私がマッドサイエンティストみたいな研究をしていない事が伝わる筈!」


「態々そんな事しなくても分かってますよ」


「ああ。流石にそういうノリってだけで本気でそんな事考えてねえよ」


「まあそんな事する人じゃないってのは分かるっすからね」 


 なんだ冗談……って皆少し目を反らしてない!?

 くそ、どっちだ! ネタでからかってるのか本気で私の事マッドなヤベー奴認定しているのか。

 ちょっと今の反応が絶妙過ぎて分かんない!

 というか最後の悪乗りだとしたら、多分打ち合わせもしてないのに息ピッタリで凄いなって思うよ。良いパーティー!


「それはさておき」


 と、そんな悪ノリ……であって欲しいやり取りを一通り終えた所で、ステラが言う。


「荷物置いてさっさと始めようぜ? 各国の元聖女による全力の合同隠蔽工作を」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る