59 聖女くん、事の顛末

 そんな風に妙なダメージを受けつつステラを待つ事数分。


「わりい待たせた」


 とてもスタイルの良いステラが荷物を持って店から出てきた。

 一応待っている間に深手を負ったシルヴィもある程度回復したみたいで、声音も表情も元に戻り、そしてステラに言う。


「いえ。ところでステラさん……普段何食べてたらそうなるんですか?」


「ん? なんの話だ?」


 ぜ、全然回復してなくない!?


「なんの話って――」


「あーいや、なんでもない。ほんと大した事ない話だから」


 すかさずシルヴィの口を手で塞ぎ、会話の強制終了を試みる。

 知っている……大体こういうスタイルの良い人にそういう事聞いても大した答えが返ってこなくて、ほぼ何もしてないのにその体型って逆にダメージ受ける感じになるから!


「ああ、今ステラさんスタイル良いよねって話してたんすよ」


 しまったこっちにもう一人いた!


「え、あ……そうか? そんな事ねえよ俺なんて」


「……」


 その謙遜が! シルヴィと若干私にもダメージを与える!

 いやほんと謙遜する必要ないんだよ!

 ステラの所の王様、裏で陰謀とか絡んでなかったら、こんな容姿端麗な女の子追放するとか頭おかしいでしょって思うからね。

 いや、その場合だと一体どんな人用意されたんだって少し興味は湧くけども。


 そしてステラは恥ずかしそうに謙遜しながら言う。


「それで、えーっと何食べてたら、だっけ? まあ普通に最低限健康バランス考えた食生活してるだけかな」


「あ、そ、そうですか」


 ほら普通の当たり障りない回答返って来たよ。


「まあその……なんだ。シルヴィまだまだ成長期だろうからさ。あまり難しく考えなくてもいいんじゃねえか? 多分だけどまだ14……いや、13ぐらいだろ? 気にすんなって」


 ついでに追撃も飛んできたよ。


「15歳です……あと来月16になります。あと最近はもう体型変わって無いですね……」


「……そっかぁ……」


「そうです……」


「…………」


「…………」


「…………」


 誰か、フォロー、して!

 私には無理だよ!


「そ、そういえばこれ聞いて良いのか分かんないっすけど、ステラさん、なんかお金が必要で冒険者始めたんすよね。その話ちょっと聞きたいなーって」


 よし、話題が変わる!

 フォローが無理ならこれが一番!

 ナイスシズク!


「あ、ああ……そう言えばシズクには話してなかったな」


 突然の話題転換に一瞬ステラは動揺したみたいだけど、それでもシズクの意図を読んでくれたのか、自然にその話に乗っかってくれる。


「まあ別に隠すような話じゃねえし教えるよ。つっても店の前でするような話じゃねえからな。移動しながら話すよ。とりあえずどこ向かうんだ?」


「とりあえず食材調達に行こうって事になってる」


「了解。じゃあとりあえず行くか」


 そうして私達はその場から移動を始める事にした。


「……シルヴィなんか食べたい物とかある?」


「と、とりあえず元気が出そうな物で」


「善処するよ」


 そんなやり取りと、そして。


「えーっと実はな」


 ステラの事情を話ながら。






「なるほど、それは大変な事になってるっすね。いきなり報酬が高いSランクの依頼を受けたのも納得っすよ」


 やがて事情を話終え、それを聞いたシズクがそんな感想を口にする。

 そしてシズクの質問で、ある程度そういう事を話せるような空気になっていた事もあって、私も聞きたかった事を聞くことにした。


「えーっと、これ聞いて良いのか分かんないけど、今日の報酬で目標額というか返済額のどの位になったの?」


「私もそれは気になりますね」


 一応再び表面上の平静を取り戻してくれたシルヴィも私の質問に乗っかってくる。


「そういう事ならボクも聞きたいっすね」


 シズクも。


「ああ、それなんだけどさ」


 そしてステラは躊躇う事無く答えてくれる。

 どこか、気分が晴れたような表情で。


「実はさ……必要無くなったんだ」


「「「……え?」」」


 必要……無くなった?


「ちょ、それどういう事?」


 そんな清々しい表情で言ってるんだから、悪い事は起きてないんだろうけど……ちょっと意味が分からない。

 そしてステラはその答えを。

 事の顛末を教えてくれる。


「すげえ簡潔に言うとな、元の金を借りてた知人ってのが借りてた金を全部返したそうなんだ。失踪した感じになってたみたいなんだけど、それも金策に走り回っていたというか……とにかく、少し遅れた感じになったらしい。そんで貸してた奴らも貸した金が返ってきたら、それ以上何かを要求するような事はなかったみてえで……まあ、とにかく、丸く収まったんだ」


「……そっか。良かったじゃん」


 ステラの話を聞いて、素直にそう言葉を返した。

 ……本当は当事者間の間ではもっと複雑な事とかがあったんだろうし、そこまで簡単な話じゃないのかもしれない。

 だけどそれは多分ステラも知らないだろうし私達も知る必要がなくて。

 ただ友達が抱えていた問題が無事解決した。

 それだけ知れれば本当に安堵できる。

 それは本当に良かったと思うよ。


「それなら一安心ですね」


「お金のトラブルとか本当に大変だと思うっすから、本当にうまく収まって良かったっすよ」


 二人も同じくそんな反応を見せ、そしてステラは言う。


「ほんと……良かったよ。トラブルが解決したのも勿論だけどさ……あの人達が信じた人に裏切られていなかったって事が、本当に嬉しく思う。そんなのはあっちゃいけない事だからさ」


 そういうステラの表情は心底安心したような、そんな物で。

 きっとお金の方は稼ぐ気満々だっただろうし、ステラの中ではそこがとても大きな問題だったのかもしれない。


 と、まあ思いもしない形でステラの抱えた問題が解決した所で、シズクが何かに気付いたように言う。


「あ……ということは」


「どうした?」


「えーっと、ステラさんの問題が解決したんだったら……冒険者をやる理由もなくなっちゃうんじゃないっすか……?」


「「……あ」」


 私とシルヴィは同時にそんな間の抜けた声を出す。

 確かにその通りだ。

 ど、どうするんだろステラ。


 これ場合によっては四人パーティー結成直後に分裂する感じになるよ?


 いや、元々本業があるから誘わなかった所を色々あってパーティーを組んだ感じで、仮に冒険者を辞めても元の状態に戻るだけなんだけど……いや、でもいざこうやってパーティーしっかり組んだら四人で仕事したいんだけど……ど、どう出るステラ……!?


 そして私達の中に緊張が走る中、ステラが口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る