ex 聖女ちゃん、ガチギレ

「ま、まあ時間は余裕を持って言ったというか、やってみたら何かできたというか……えへへ」


 シルヴィが照れるようにそう言っている間に、黒装束の少女はシルヴィがやった何かの正体に気付いたらしい。

 黒装束の少女は、何もない空間目掛けて黒い弾丸を撃ち込む。

 すると破砕音と共に何かが壊れた。


「……さ、流石にステラさんにこんな怪我を負わせる人なだけあって、気付くの早いですね……」


(……結界か?)


 ステラも一歩遅れて気付いた。

 おそらく自分と黒装束の少女を取り囲むように結界が展開されていたのだろう。

 それと自分達の身に起きた身動きを封じるほどの痺れになんの関係があるのか。


 少なくとも、結界が破壊された後もステラの体からは痺れが消えていない。

 恐らく……黒装束の少女からも。


「……」


 なんとか立ち上がったようだが、全くもって万全とは言えなさそうだった。

 ……だとすれば。

 無傷でデフォルトから結界を鈍器にして戦うスタイルのシルヴィが負ける道理は無い。


「……さて」


 そう言ってシルヴィが歩み寄って来る。

 右手には結界で作られた鈍器を。

 左手にはバチバチと電撃を纏わせて言う。


「い、いくらステラさんに大怪我を負わせた相手だとしても、こ、これ以上あまり手荒な真似はしたくないんで……えーっと、大人しくお話を聞かせて頂けると助かります」


 言いながらシルヴィは距離を詰めていく。

 だけど動くなと言われて動かないような相手ではない。


 体が動かなくても脳をフル回転させ魔術を発動させてくる。

 自身の背後に紫色の魔法陣を展開。

 そしてそこから無数の黒い弾丸を連続射出してくる。


 対するシルヴィは正面に無数の結界を張り巡らせた。

 その全てを相殺するように。


(……ッ!)


 ……とても静かに、それでもステラが戦慄する程の怒りを乗せた表情で。


「大人しくしろって言いましたよね」


 次の瞬間、シルヴィはその手の結界の鈍器をまともに動けない黒装束の少女に対し、勢いよく投擲する。

 それを黒装束の少女は正面に結界を張って防ぐが……鈍器を弾き返したその結界は大きなヒビが入っていて……そんな少女に追撃を掛けるように、既にその結界の前にシルヴィが居る。


 弾かれた結界をキャッチして。

 そして振り抜く。

 直線的な動きだがそれでもシンプルに重い力が乗った一撃。


 その一撃は結界を叩き壊してそのまま黒装束の腹部に叩きつけられる。

 全力のフルスイング。


 それを叩きつけられた黒装束の少女は勢いよく弾き飛ばされる。

 そしてその推進力を止めるように、少女の背後に結界が生えた。


「動くな」


 そうドスの効いた声で言った瞬間に少女の体は結界に直撃。

 言葉の通り物理的に止められる。

 そしてその前に、追撃するように左手に電撃を纏わせたシルヴィが迫り……手が触れるか触れないか、ギリギリの位置で左手がより一層強く光った。


「……ッ!?」


 そして一瞬激しく痙攣するように体を揺らした少女は、今度こそその場に倒れ伏せる。

 そんな少女を前にシルヴィは軽く深呼吸してから、ステラの方を振り向く。


「お、終わりました。とりあえずこれで動けないと思います」


「お、おう……具体的に何起きてんのかは分かんねえけど……ナイスだシルヴィ……さん」


「えーっと……なんでさん付け?」


「じょ、冗談だよお疲れシルヴィ、助かった」


 言いながらステラは思う。


(こ、こわー)


 元々が大人しくて気弱な性格だっただけに、ギャップが凄い。

 普段大人しい人間程キレるとヤバイみたいな話を聞いた事があるが、こういうのを言うのだろうか。


(と、とにかくあまりシルヴィは怒らせないようにしとこ)


 なんか手が付けられなくなりそうだし、単純に普通に怖いから。


 ……まあそれはともかく。


(……しっかし、まあ……無事で終わったなら良かった)


 具体的にシルヴィが何をしたのかは分からないが、黒装束の少女が起き上がってくる気配は無い。

 そして不定期に痙攣して体をビク付かせる様子を見ている限り、とても演技で倒れているようには思えない。

 もしそうならシルヴィはとっくに追撃している。


 ……だからまあ、とにかく。


 この戦い、ステラとシルヴィの勝利である。

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