41 聖女さん、VS黒装束の男Ⅱ

 まずい、とにかく結界で防御を……ッ!

 そう考えて前方に壁となるように身長程の結界を張る。

 まだ私と男の距離があまり離れていない以上、仮に爆弾だったとしてもそれ程の威力は無い筈。

 だからこれ位の結界で十分に防ぎ切れる筈。


 そして次の瞬間、スティック状の結界から強い光が放たれた。


 文字通り強い光。

 直視すれば目を潰す程の、光の爆弾。


「……ッ!」


 次の瞬間、着地した男が再び動いた。

 音も無く、私が張った結界をかわすように、こちらに向かって高速で走ってくる。

 手に武器は無い。

 さっきいつの間にか刀を持っていたように、再びその手に武器が握られていてもおかしくはなかったけど、刃物はこちらに有効ではないとでも判断したのかもしれない。

 その手に何もなく、代わりに何かしらの魔術を付与したように黒く光っている。

 そんな状態で、私に止めを指すように接近。

 ご丁寧に、何かしらの魔術で全く違う方向から足音を発生させて。


 ……と、ここまで私には全部見えている。


 私の張る結界は強度が高いだけじゃない。

 ちゃんとそれ以外の害を及ぼす何か。

 例えば目を潰すほどの強い光もある程度遮断してくれる。

 ……だから眩しかっただけ。


 そしてそれを知っているのは、その結界を張っている私だけだ。


「あ……あぁ……!? 何も見え……ッ!」


 それらしい演技をする。


「そこか……!」


 足音に反応して手を向けて、魔術を放とうとする仕草をみせる。


 それで私は隙だらけの馬鹿になりきれる。

 だからこそその私に攻撃する黒装束の男にも、警戒心の低下という隙が生まれる。

 そして男が私に接近した瞬間、足音のしていた方向。

 男の迫る逆の方向に風を噴出する。


 男に向かって飛びかかりながら。


「何……!?」


「隙有ィ!」


 そして風で加速しながら男の腹部に飛び蹴りを叩き込んだ。


「ぐぉ……!?」


 男から鈍い声が聞こえると同時、私の蹴りで弾き飛ばされて少し遠くの大木にぶつかり止まる。


 ……よし、此処だ……追撃!


 再び足元に風の塊を作り出し、それを踏み抜く。

 そして急接近。

 大木を背に座り込む形になっていた男に対して拳を放つ。


「……ッ!」


 だけど次の瞬間、男の姿が消える。

 文字通り跡形もなく。

 目の前には衝撃で折れて倒れ始める大木だけ。


 そして背後に気配を感じた。


 ……近距離の空間転移魔術!


「くっそ面倒!」


 放たれたのは私の側頭部目掛けた蹴り。


「……ッ!」


 それをギリギリの所で体勢を低くして回避。

 ……一発叩き込んだのに、まだ動きのキレが凄い。

 本当に相当な強者だ。


 ……だからこそさっきから一つ違和感がある。


 私と相対できるだけの力の出力や技量があるのに、シルヴィやステラから感じた、ヤバい奴を前にしているような、そんな感覚がこの男からはあまりしないんだ。

 さっき言ってた聖女の加護といい、この人は色々と意味が分からない。


 ……聖女の加護?


 自分で改めて考えて、一つ引っ掛かる事があった。


 目の前の男から感じない圧倒的な強者の感覚。

 聖女の加護。


 ……一つ、試して見る必要のある事ができた。


 私は男の蹴りをかわした流れでカウンターを叩き込む準備をしながら、一つ発動までに時間の掛かる魔術を構築し始める。


 この戦いに勝つ為の突破口になるかもしれない、そんな魔術を。

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