16 聖女くん、再会

「それにしても普通に食材置いてあるのを見る感じ、アンナさん全くこの国出ていくつもり無いですよね」


「うん、全くない。私は私の家に愛着持ってるからね。余程の事が無いと引っ越す気は無いかな」


「追放って余程の事じゃないんですかね」


 朝食は無茶苦茶シンプルにエッグトーストとサラダ。そしてコーヒーで済ませる事にした。

 あの馬鹿に追放って言われた後に普通に買い出ししておいた食材で。

 ……我ながら本当にいつも通りの朝だよ。



 ……さて、いつも通りの朝のルーティーンを終えた所で。



「よし、行こうシルヴィ」


「はい!」


 パジャマから動きやすいラフな格好に着替えた私達は、再び転移の魔法陣で元の宿屋へ。

 そしてチェックアウト。


「食事が出ない感じの宿に寝泊りするのって素泊まりって言うみたいですけど、寝泊りすらしてない場合ってなんて言うんですかね?」


「さぁ……いや、マジでなんて言うんだろ」


 そんなどうでも良いやり取りをしながら、さりげなく寝具屋の場所と営業時間をチェックしつつ冒険者ギルドへと足取りを向けた。

 そして冒険者ギルドが見えてきた所で、私達の視界に見覚えのある人物が目に入った。


「アンナさん、あの人……」


「あ、ステラだ。何してるんだろ、あんな所で」


 冒険者ギルドの前に立っていたのは昨日知り合った私達と同じような境遇で追放されたボーイッシュ聖女のステラだ。

 ……こんな朝からあんな所で何やってるんだろ。

 まあお店から結構近いし、この辺で見かけてもおかしくは無いんだけど……でもなんだろ。

 なんとなく誰かを待っているような……そんな様子に見える。


 そして向うも私達に気付いたのか、どこか安心したような表情を浮かべる。

 ……もしかして私達を待ってたのかな?


 それは分からないけれど、無視するような間柄でもないからとりあえず声を掛ける事にした。


「おはよステラ。どうしたのこんなところ……で?」


 そこで私は異変に気付いた。

 そしてシルヴィもそれに気付いたらしく、ステラに問いかける。


「えーっと……ステラさん、なんでギルドカードを持ってるんですか?」


 ステラの首からは駆け出しのFランク冒険者である事を示すギルドカードが下げられていた。

 ……あの話の流れから言って、冒険者になるという選択を取らないと思っていたステラにだ。

 そしてシルヴィの問いに反応するように、ステラは言う。


「……実はこの件も含めて、二人に相談があるんだけど……いいかな?」


 あまり良くない顔色で。

 覇気の無い弱弱しい声で。


 どこか助けを求めるように、そう言ってきた。

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