第78話『西ノ島新島 着陸』

銀河太平記・066


『西ノ島新島 着陸』 加藤 恵   







 火星を出る時には姿を変えようと思っていた。




 それが、何度やっても緒方未来の姿を解除できない。


「もう、元の人相忘れちまったっす」


 シキシマが憎まれ口を言う。


 天才ロボット学者の孫のわりに、なんの閃きもないシキシマがイッチョマエなことを言うが、こんなクソガキを言い負かしても憂さ晴らしにもならない。


 下手に興奮させて、着陸に失敗されては元も子もない。


「……絡んでくんなきゃつまんないんですけどぉ」


「操縦に集中して、アナログで飛んでるんだから」


「それ、正しくないっす。このマイドはアナログでしか飛べねえっす」


「家に帰るまでが遠足だって、小学校で習わなかった?」


「大丈夫っす、今年は、まだ事故ってないし、西ノ島は家じゃないし。恵さん送ったら、またムーンベースまで戻るから、道半ばだから……あ、よけい気を付けなきゃいけないのか」


「そうよ」


「しかし、緒方未来でしたっけ? そのアバターもなかなかっすね。恵さんて分かってなかったらアプローチしたかも」


「冗談でも言わないでよ。おかげで、火星からは正規の交通手段は全てNGで、ムーンベース経由で、月からまる二日もかけて飛んでくるハメになってるんだから」


「仕方ないっす、ステルスだけが取り柄のマイドなんすから」


「だぁかぁらぁ、慎重に着陸してよね。ここで事故っても救難信号も出せないんだからね」


「恵さん、トイレ行ったっすか?」


「さっき行った」


「ちがうっす、大の方」


「なに聞くのよ!?」


「トイレタイム短いから、大の方は我慢してんのかなって」


「答えられるか、そんなこと! あんただって、短いでしょ!」


「早メシ早グソは得意技で、じいちゃんも、これだけは褒めてくれたっす」


「ああ、そ……ね、着陸の座標は合ってるんでしょうね」


「だいじょ……あ、ズレてる……修正っと……」


「ちょ、もう、ギア出してるわよ!」


「あ、間に合わねえ!」


「おい!」


「どっか掴まって!」




 ガシャン! ギギギ……ギク……




 とても嫌な音をさせて、マイドは着地。


 案の定、ギヤを破損。


 さすがは東大阪の記念碑的パルス船なので、飛行することに問題は無かったが、このままではムーンベースに戻った時に着陸ができない。


「悪いけど、一人で直してね。こんなとこでグズグズしてるわけにはいかないから」


「大丈夫っす、エマージェンシーロボ積んでるっすから」


 言いながらトランクからロボを取り出すシキシマ。


 まあ、これでも敷島博士の孫なんだ、なんとかするだろ。


「じゃあね」




 岩場を抜けて、周回道を目指す。


 

 ピピ



 周回道に出たところで、ハンベが鳴る。


 シキシマからの、短距離通信だ。


 やっぱり、修理の手が足らない……だったら無視!


 画面を開くと、現在位置から最短で利用できるトイレが三つ点滅していた。





※ この章の主な登場人物


大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任

扶桑 道隆             扶桑幕府将軍

本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓

胡蝶                小姓頭

児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ

森ノ宮親王

ヨイチ               児玉元帥の副官

マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)

アルルカン             太陽系一の賞金首


 ※ 事項


扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ

グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略

扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信


 

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