第43話『俺たちが耳をそばだてたわけ』


銀河太平記・031


『俺たちが耳をそばだてたわけ』ダッシュ   






 家に帰るまでが遠足だ!




 小学校のころから先生に言われ続けてきたことだ。


 予防的注意であったり叱責であったりしたけど、そう言って学校としてのアリバイを作っておかなければ責任が持てない。


 そう思われるくらいに、俺たちはヤンチャだった。ミクがいくらか抑制的なんだけど、ミクに言わせれば「ダッシュがやり過ぎ!」だそうで、俺としては「ミクの本性こそ野生児だ!」だった。


 若年寄の息子のヒコと飛び級のテルが同級になって「これで、大石(俺の苗字)と緒方(ミクの苗字)も落ち着くだろう」と先生たちも期待したが、ヒコの奴は、頭と血筋がいいぶん頭が回って、俺たちのやることは手が込んでくるようになった。俺たち的には、ただただ面白い学校生活を送りたかっただけなんだけどな。


 火星にもオリンピックがある。


 最初は母星である地球が懐かしくって、地球にあやかろうというだけだったんだが、火星の人口は全部足しても100万に手が届いたところで、国籍に関わらず、みんな寂しかったんだ。


 あ、それって、まだ地球の植民地だった百年前のことな。


 だから、オリンピックやると、地球の何倍も感動しちまう。


 オリンピックが済むと、結婚する奴が三倍くらいになって、十カ月後には、ちょっとした出産ラッシュになる。感動した火星人たちは『いっそ、これを機に火星連邦政府を作ろう!』ってことになる。


 しかし、文化や言葉や宗教やらの違いは、一時の感動で統合できるほど簡単なもんじゃない。


 だから、火星は今でも、ほぼ地球の出身国別の国やら自治領の構成になってる。


 オリンピックと言えば聖火だ。


 聖火は、地球と同じくギリシアのオリンポスから運んでくるんだ。


 聖火は北半球と南半球の二つに分けてリレーされて、開会式のスタジアムに着いた時に一つにまとめられて聖火台に移される。


 去年の扶桑オリンピックで、俺たちはやっちまった。


 ヒコのツテで、幕府総合庁舎のアルバイトに行ってたんだ。ま、雑用いろいろのな。


 FOC(扶桑オリンピック委員会)が入っているフロアの雑用をやってる時にダクトから会議の音声が漏れてきたんだ。


 その会話の中に、聖火リレーのプランに関するものがあった。


 ちょっと略すけど、俺たちは聖火を掠め取ることにしたんだ。


 聖火は『火』なんだから、うつせばいいわけで、むろん警備とかがすごくって、常識じゃできないことなんだけど、ヒコとテルの知恵でやっちまった。


 しかし、上には上があるもんで、すっ飛ばして言うと担任の姉崎すみれに見つかって、そろって停学をくっちまった。


 むろん反省なんかしていない。なんたって面白かったしな。


 その面白い状況が、再びファルコンZのキャビンで起こった!


 晩飯のあと女子のキャビンで喋っていた。女子の部屋に行って盛り上がるってのは修学旅行の御約束だしな(^▽^)/


 さっきも言ったけど、家に帰るまでが修学旅行だ。


 すると、去年のオリンピックと同じようにダクトから聞いてはいけないヒソヒソ話が聞こえてきたんだ。


 俺たちは去年と同じくらいにワクワクして耳をそばだててしまったぞ……。




※ この章の主な登場人物

•大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

•穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

•緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

•平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

•姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任

•児玉元帥

•森ノ宮親王

•ヨイチ               児玉元帥の副官

•マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)


 ※ 事項

•扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる


 


 

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