第42話『アクトマインとは地雷のこと』


銀河太平記・030


『アクトマインとは地雷のこと』ミク   






 ウワッ(#*0*#)!



 キャビンに向かう途中で躓いてしまった。


 船(宇宙船)の通路やキャビンはバリアフリーが当たり前なのに、このファルコンZは、あちこちに凸凹や段差がある。


「あ、ごめんなさい!」


 ミナホがすっ飛んできた。


「いや、案内も待たずに動き出したのが悪いんだから(^_^;)」


「テルがせかせるからだぞ」


「だって、船内案内もらってりゅしい」


「ごめんなさい、わたしの不手際です。案内図インストールしたら動きたくなりますよねえ(^#0#^)」


 やっぱ、宮さまと元帥への案内が先になるよね、わたしたち高校生だし。案内ももらったし、トモヅルはデッキも三層しかないし、テルが「行こう!」と先に進んだのも無理はない。


 トモヅルの汚さは掃除ができていないという意味の汚さなんじゃないんだ。スクラップ同然の退役船をあちこち手を加えて体裁を整えている。


 ほら、ジャンク屋で『ニコイチ』って用語があるじゃない。二つのジャンク品のいいところを寄せ集めて使えるデバイスを一個作るみたいな。それを、船一隻分の規模でやったのがファルコンZ。


「いえ、98隻分なんですけどね(-_-;)」


「「「「98隻!?」」」」


 みんな驚いた。


「ジャンクにかけては、銀河一の腕なんですよ、船長(#^▽^#)。性能第一主義なもんで、居住区とかは二の次三の次で、デコボコだらけなんですよぉ」


 済まなさそうに頭を掻くミナホ。くやしいけど、可愛い。


「通路のここからは、先代の『みょうこう』のジャンクで……」


「え、巡洋艦のパーツを駆潜艇に!?」


 均衡とか正確さを大事にするヒコらしく驚く。


「あ、その分、キャビンの前は『じゅんよう』の……」


「え、航空母艦の?」


「でも『じゅんよう』は、元は客船でしたし(^_^;)」


 とにかく、艦種の違うパーツのつぎはぎで、通路の幅も天井や床の高さもまちまちな様子。


「「アハハハハ」」


 ヒコとダッシュは面白がって朗らかに笑うけど、ミナホは顔を赤くして恐縮している。


「男性用キャビンは、あっちですので……」


 笑ったことへの意趣返しじゃないんだろうけど、ミナホは通路の分岐を指さして促した。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ、俺たち火星の野生児だから」


 分岐を楽しそうに曲がって、数秒後に悲鳴が聞こえて、ミナホはハッとしたけど、女子の案内が任務と、前を歩きだした。


 キャビンがいびつだったらどうしようかと思ったんだけど、ちゃんとしていたのでホッとする。


「あのう、ミナホが言っていたアクトマインって?」


「あ、地雷のことですよ。国際的な用語ではマインて言うんです」


 キャビンのインタフェイスをチェックしながら説明してくれる。


「じ、地雷!?」


「はい、対人用のアクト地雷だったんです」


 アクト地雷は国際条約で禁止されている兵器だ。


 要は、ロボットの中に爆薬が仕込んであって、人間のふりをして敵に近づいたり待ち伏せしたりして自爆して敵をやっつける兵器で、ロボットの人権が認められるにしたがって、使用が制限されて、何年か前に完全に禁止になったはず。


「それは表向きなんです、わたしみたいに擬態能力が高いものや隠密性が優れているものは、密かに使われているんですよ」


「ミナホさんは……」


「ミナホでけっこうですよ。わたしは、条約前の最後のプロトタイプだったんです。最終審査が終わったところで、条約が批准されて、批准の象徴として廃棄が決まっていました」


「そうなんだ」


「むろん、爆薬とかは外してありますから、安心してお付き合いください(^▽^)」


「う、うん、それはもちろん!」


「元帥はすごいですね、元帥のボディーは今世紀最高と言われた敷島博士会心の作のダンサーロボットのJQです。擬態には自信がありますけど、あの方に擬態するのだけは無理です」


「そうにゃの?」


「あの湧き出てくるような魅力と力は、JQが元帥のソウルをパーフェクトインストールしたからこそ出てくるもので、とても擬態の力で真似のできるものじゃありません」


「そうなの?」


「そうにゃのか」


 テルと二人感心していると、通風孔から『クシュン』とクシャミが聞こえた。


「「え?」」


「あ、こないだの改装でダクトが変になってるんだ!」


「あの、くしゃみ?」


「すぐに直してもらいます!」


 ミナホがすっ飛んで行って、あたしはテルと顔を見かわした。


「あれ、元帥のクシャミだったよね……」




※ この章の主な登場人物

•大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

•穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

•緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

•平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

•姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任

•児玉元帥

•森ノ宮親王

•ヨイチ               児玉元帥の副官

•マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)


 ※ 事項

•扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる



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