第13話『修学旅行・1』
銀河太平記
001『修学旅行・1』
あれから二十五年
東京下町のレンターカー営業所のカウンターを挟んでもめ事が起こっている。
「だかや、ちゃんと見てってゆってゆのよ!」
「見せていただいたから申し上げているんです。 テルさま、申し訳ありませんが十八歳以上の方でないとアナログ車はお貸しできないんです」
「年齢じゃなくて、ライセンスよ、ライセンス! 普通免許の他に大型特殊、航空機、船舶、第一種戦闘車両、アナログ車両の免許も持ってゆのよさ」
「でも、これは火星のライセンスで、地球では通用しないもので……」
「んもー! だかや、こっちも見てってゆってゆの! オールマースグランプリで地球代表のアメリカチームをブッチギリでやっつけて優勝した時の証書よ。ホログラムだけじょ……ほら、全米アナログ協会の会長と大統領が、あたしにメダルと賞品を授与してくれてるとこよ!」
1/6サイズのホログラムの大統領が、メダルといっしょに普通免許、大型特殊、航空機、船舶、第一種戦闘車両、アナログ車両の免許をテルに授与しているところだ。
『オールマースグランプリにおいて、顕著な成績と共に優勝したミス・テル・エレキ・ヒラガに優勝メダルと共に全米普通免許、大型特殊、航空機、船舶、第一種戦闘車両、アナログ車両の免許を授与します!』
『えと、こえでカメラに収まったや、首だけしか写やないし……わたしに合わせたや、大統領は膝まずかなきゃなやないし……できたりゃ、大統領と同じ高さでいたらきたいんらけども……』
『それは、もっともだ。シンディー』
大統領は、火星親善旅行に同行させている孫娘のシンディーを手招きした。
『了解よ、お祖父ちゃん! 失礼、チャンピオン』
『うわ!』
シンディーはニコッと笑うと、あっという間にテルを肩車した。
『ありがとうシンディー』
150センチのシンディーに肩車されて、やっとテルは大統領と5センチの差で対面できた。
『おめでとう! キミは全火星チャンピオンであるだけでなく、地球代表であるアメリカチームをも打ち負かした! 太陽系一! いや、銀河で一番の英雄だ!』
ファンファーレが鳴って、ドラムロールが木霊すうちに優勝メダルと賞品が授与された。
「だかや、わたしは地球でのアナログライセンスも完璧にゃのよさ!」
「それは承知しておりますが、日本では十八歳未満のアナログ運転は認められておりませんし、合衆国免許では日本国内の運転はできません」
「あにゃたも頑固ねえ」
「もうしわけございません」
「アメリカじゃ、日本の国内免許でも運転できゆのよ、相互主義の観点からゆっても……」
「申し訳ございません、日本では、改めて国際免許を取って頂きませんと、それも、年齢規定は……」
「分かった!」
バン!
カウンターを叩くテルだが、やっと首だけがカウンターから出ている状態なので、カウンターを叩いても迫力はない。
「いま、ここで国際免許とゆかや、見てにゃさい!」
国際免許は、申請して、場合によっては実技と法規のテストがある。
テルは、端末を操作すると、目にもとまらぬ早業で二分余りで国際免許をとってしまった。
「こえで、文句ないっしょ!」
端末に映し出された免許を指し示すと、営業所に一台しかないアナログ車のキーをふんだくって駐車場に向かうテルであった。
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