第6話 序・6『興隆鎮』


銀河太平記


序・6『興隆鎮』    






 それから立て続けに二度の襲撃を受けたが軍服の焼け焦げを増やすだけで乗り切れた。




「敵は態勢を整える前に行動に出ています」


 三度目の戦闘には興隆鎮の駐屯地から駆け付けた捜索隊が加わり、状況見分を終えた部隊長が付け加えた。


「JQが加わったのを知って、敵も焦ったんだな」


「はい、JQは10式の特装体にしか映りませんから、奇襲攻撃の前兆と捉えたのかもしれません」


「すみません、ご迷惑をおかけしました(-_-;)」


 JQは初心な女学生のように恐縮する。敷島博士はJQにいくつものパーソナリティを仕込んでおいたようだ。よく混乱しないものだと感心する。見分作業中の隊員たちのサーチがJQに向けられるのをハンベが知らせてくれる。


「おい、カルチェタランのプリマに失礼だろう」


「習い性なもので申し訳ありません。貴様ら、そこらへんで止めておけ。駐屯地へ戻ります」


「おう」


 全員の馬をクルーザーに変換して、興隆鎮の駐屯地を目指した。


 平時において馬は四つ足だが、戦時には脚を収納して反重力走行のクルーザー変態する。部隊ぐるみのクルーザー変換は国際慣例で戦争状態に入ったことを意味する。


「まるでお浄土に突撃していくみたいですね」


「死に急いでいるとも言えるかもしれんがな」


 興隆鎮は奉天の西にある村落で、地平線に没しようとしている日輪の方角だ。


「敵は、さらに西方。わたしたちよりも死に急いでいるとも言えます」


『今次の戦いは「死に急ぎ事変」と名付けられるでありましょう』


「こら、個人的会話をサーチするんじゃない」


 ワハハハハハハハ


 捜索隊の隊列に笑いが満ちる。全員が八式・十式を中心とするロボット部隊だが、無駄が多いというか、どうにも人間臭い。


「フフ、大昔の馬賊みたい」


 JQが笑う。


 しかし、この人間臭さも、俺の振舞いにロボットたちが適応しただけなんだがな……それに、今次の戦いは部隊長が言うような『事変』の規模には収まらないかもしれない。




 日本軍興隆鎮守備隊駐屯地




 五つの言語で書かれた営門に入ったのは、日没の三分前だった。


 小学校の敷地ほどのところに五つの建物があるきりで、名前の通りの、せいぜい大隊規模の駐屯地で、とても万余の兵士が屯しているようには見えない。


 二十三世紀初の大戦争が間もなく起ころうとしていた。


 

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