人形の願い

一子

第1話

醜い少女は無惨な死をとげたあと

美しい人形として転生した

そこで出会ったのはかつての恋人だった

ある寒い日のことである

恋人はかつての恋人ではなく、その昔から愛していた者を思い出していた

しかし、人形となった私の瞳を見つめるやいなや、どうやらその女は彼の頭から消え去ったらしい

転生して、人形になって初めて報われた

彼は私のブロンドの髪を優しく撫で

丸い額に優しくキスをした

そして彼は珍しく、静かに涙を流した

どうやら私が人形であることが悲しくてたまらないらしい

でも私にはわかる

私が話せるようになれば、彼は私を愛さなくなる

前世で恵まれなかった私へ

私は人形に生まれかわり、今、復讐を果たしました

一人暮らしの彼は食事中だった

昼間からチャーハンをビール流し込み、ビールは1缶がちょうどいいと、私の目を見て微笑んだ

私の瞳はガラス玉で出来ている

前世よりも、彼の最愛だった女よりもきっと美しい

私は嬉しかった

たとえいつか捨てられたとしても

初めて、全ての人間の女に勝つことが出来たのだから

永遠に変わらない美しさを手に入れた

今となっては、誰もが私に心を奪われ

美しい、とため息を着く

一ヶ月後の桜が降る日、彼は墓参りに行った

前世の私が死んでからちょうど2年が経っていた

彼は静かに涙を拭った

そして語り始めた、私の墓に

そこに並ぶのは後悔の言葉、そして忘れられていた愛の言葉だった

彼のカバンに入れられていた人形の私はそっと涙を流した

彼は言った、この人形はね君の代わりんだよ、でも職人に君の写真を見せて作らせたら、職人は君の髪をブロンドにし、目は美しいガラスの玉で作ったんだ、実物より美しいって?

職人は、僕よりも君のことを知っているみたいだったよ

君の内面の美しさをもっと分かりやすく、外見にも表したんだそうだ

私はここにいるよ

人形の私はそう囁きたくても口が聞けなかった

ただ、瞳が大きく煌めいた、涙で

私は人形だけれど、魂が宿っているから涙を流すことはできる

彼に気づかれてしまった

彼は後悔の言葉を並べ、心からの愛を私に誓った

なんだかすっきりしてしまった私は、成仏し、人形の体から離脱して、天の上まで登って行った

その後も彼は二度と恋人を作らなかった

ただ、空っぽになった人形の私を

ひたすら大切にした

やがて数十年という年月がたち

彼の人生にもおわりが来た

彼は人形の私を抱きしめて、髪を優しく撫で、キスをして、涙を流しながら永遠の眠りについた

彼の遺書にはこう書かれていた「人形は一緒に棺桶に入れてください。あの世でもずっと一緒にいたいのです」

人間だった私の幸せは来世で、人形として叶えることが出来た

もう何も思い残すことはなかった

前世で早く死んで良かった

恵まれない少女は人形として美しく蘇り、幸せな生涯を愛する人と共に終えた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人形の願い 一子 @aaaaaaaaaaaaaaaaaa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る