第3話 夢?どっきり?…タイムスリップ的な何か?

 

 先ほどとはうって変わって、シーンと静まり返る部屋の中。徳は松に言われたことを部屋で一人考えていた。


 「少し頭の整理がしたい。」と伝えると、気を利かせた二人は「夕餉の準備をしてきます。」と言って、部屋から出て行った。



(…姫?姫ってあの姫…?

城主ってことはお城のお姫さまってこと…?私、さっきまで施設の部屋に居たよね…?)


 施設で育った徳はだいぶ現実的な女の子に育ってしまったらしく、お姫様へ憧れるよりも、安定した資格のある職業でバリバリ働いている大人に憧れを持っていた。そのためお姫様というのがあまりピンとこなかったし、イメージすらできない。

 それに、間違いなく自身は先ほどまで施設の部屋に居たと確信しているのだ。しかし、姫である「大谷徳」について説明され、疑うことなく自身のことを「大谷徳姫」だと認識している二人に戸惑う。


(…ってか、それもだけど!これからは豊臣秀吉様の天下となるだろうって何!?)


 松の話によると、徳の父親は豊臣秀吉の家臣であり、今は小田原征伐からの帰りなのだと。父親は徳が目を覚ましたという知らせを聞き、馬を飛ばして来るため、きっとめちゃくちゃ早く帰ってくるであろうということだが…――。



(…小田原何とかって、そもそもなに…?…これは、どういうこと…?夢?どっきり?…タイムスリップ的な何か?いやいや、非現実的すぎる…。でも…――、





――……本当に…、私に父親がいるの…?)




 あまりにも予想外な情報が多すぎて状況を受け入れがたい。

 しかし、少し時間が経過したためか、徳の頭も心も少しずつ落ち着きを取り戻していた。






(…父親、か…。…もしこれが夢だとしても、……ここが「お父さん」が暮らしている家…。)








カタカタ…


「ん?」


 不意に室内に小さな物音が響き、閉じていたはずの襖がわずかに開いていた。

 すでに日暮れの様だ。夕焼けの光が、行灯あんどんのみで照らされやや暗かった部屋に、緋色の明るさをもたらす。


 風で開いたのだろうと深く考えず徳は立ち上がる。襖が開いたことによって生まれた外への興味で、一歩足を踏み出したその瞬間…―――




ドクンッ





――四方八方、部屋のいたるところから、多くの視線を感じ取る。








(っ何…!?)



 あまりの圧に徳は慌てて振り返り、あたりを見回す。しかし、部屋の中は先ほどと変わりはなくシーンと静まり返っているままだ。





 しかし、明らかに何かが違う。





カサカサッ


クスクスッ




(…何…?何かいる…っ、)




 部屋の中を睨んでいた徳の背後で、少ししか開いていなかった襖がスーっと静かに開く。

 夕日により赤く染まった光が徳の背中に差し込み、どんどん畳の上に自身の影を色濃く生み出す。





きゃっきゃっ


とくだっ


ふふふっ


とくだっ





 なんだか楽しそうな、うれしそうな声が周りに響くが、明らかに異様だ。

 緊張しながら自身の影を見ていた徳だが、―――その陰が動いた。







―――まさに、徳の真後ろに子どもが立っているように…








バッ




「とくだー!!!」

「ひぎゃーーーーーーーーー!!!!」


 勢いよく背後を振り返ると、顔の中央に大きな目玉が一つあり、笠をかぶった少年が笑顔で徳に抱き着いた。

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